食品安全情報blog過去記事

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レシートのビスフェノールA−専門家の反応

SMC NZ
Bisphenol A in receipt paper – experts respond
October 23rd, 2014.
http://www.sciencemediacentre.co.nz/2014/10/23/bisphenol-a-in-receipt-paper-experts-respond/
本日PLOS Oneに発表された研究で、感熱紙のレシートを頻繁に触る人は高濃度のビスフェノールABPA)に暴露されることを示唆した。
Missouri大学とToulouse大学の研究者らがハンドサニタイザーを使ってレシートに触りそれから手でフライドポテトを食べた10人の血中BPAが増えること、女性の方が男性より多いことを報告した。しかしこの研究は現実的でない、濃度が低すぎて意味のある整体影響はないことなどで批判されている。
オーストラリアと英国のSMCが専門家のコメントを集めた。
Adelaide大学医学部上級講師Ian Musgrave博士
BPAは弱いエストロゲン作用がある化合物でプラスチックや感熱紙など多くの製品に使用されている。人々は日常的に生物作用が出るより少ない濃度のBPAに暴露されている。この論文は感熱紙が意味のある暴露源になるかどうかを調べたもので、実験に使用された条件は現実的ではない。被験者は皮膚浸透性の高いハンドサニタイザーで濡れた手で4分間感熱紙を持ってその直後に食品を手で食べている。このような条件であっても血中BPA濃度は生物影響のある濃度よりはるかに低く、速やかに排泄された。乾いた手で同じ時間感熱紙を持った被験者の血中及び尿中BPA濃度に変化はなかった。
この研究は感熱紙を扱うほとんどの人にとって感熱紙が意味のある暴露源ではないことを示す。注意したいと思うレジ係の人は手が皮膚浸透性の高いハンドサニタイザーで濡れている場合は感熱紙を触らないようにして、食べものを食べる前には手を洗うという標準的衛生助言に従うように。
RMIT University Melbourne応用科学科分析化学講師Oliver Jones博士
この論文はBPAの新しい暴露経路の可能性−ハンドサニタイザーとの同時暴露を示した興味深い研究を報告している。著者らはエラーの可能性を最小限にするよう注意して実験したようだ。しかし私はこれが実験室でおこることについては疑わないが、アルコールベースのハンドサニタイザーを使った直後に印刷されたばかりのレシートを取り扱うことがそんなに多いとは思えない。個人的には見たことも経験したこともない。
また著者らがこの論文で主張する感熱紙がヒト健康への脅威になるという根拠を十分に提示したとは思えない。著者らは反BPAで有名な自分たちの共著者が執筆したレビュー2報を引用しているだけである。私の知る限り、現実的な濃度でBPAが有害だということを証明した人はいないし、1950年代から使われていて健康被害を出したことはない。従ってこの研究は面白いものではあるがその結果が一般の人にとって懸念材料となるとは思えない。
University of Melbourne名誉教授で前オーストラリア王立化学研究所長Ian Rae教授
製造業者は十分一生懸命探しているが、感熱紙のBPAの代用品はなかなかない。濡れた手のほうにBPAが多く移行する、BPAが紙から手を経てフライドポテトに移行する、というのは驚くべきことではない。この論文には引用されていないが3年前の研究で多様な紙のうち感熱紙が主要BPA暴露源で平均的な人は1日17.5 ngを皮膚から吸収していることが報告されている。健康影響についてはまだ研究中である。
Edith Cowan University Western Australia健康科学技術学部と医学部の講師Anna Callan博士
BPAは日常的に使う多くの製品に存在し、尿中BPA代謝物の研究からほぼ全ての人が暴露されていることがわかっている。BPAエストロゲン作用を真似るので懸念があるとされ多くの人はポリカーボネートボトルに使われていることを知っていて多くの製造業者はBPAフリー製品を提供している。これまでの研究でレジ係の人の尿中BPA濃度が一般人より高いことが示されている。この研究は少人数だが一部のファストフードレストランでおこりそうな条件であり暴露を減らすための行動変化方法を知らせる。
Edinburgh大学男性生殖健康研究チームリーダーRichard Sharpe教授
この研究はファストフードレストランでサニタイザーを使ってレシートを触ってフライドポテトを食べた場合にどれだけBPAが吸収されうるのかを調べた。概してよく考えられているが一部はありそうもない条件であり、現実を反映したというより暴露を最大にするためのものであろう。
しかし問題なのはこの研究で報告されている血中ビスフェノールAの活性型と不活性型の比が他の研究で報告されているのと大きく異なることである。これは説明が難しく、血液サンプルにどこかでコンタミがある可能性を示唆している。
エタノールサニタイザーはノロウイルスには効かないから水で手を洗いましょうよ、ファストフード店なら手洗いできるはず)

  • ハンドサニタイザーを使った後に感熱紙のレシートを持てから食事をすることは血清中生理活性のある、および尿中総BPA濃度を高くする

Holding Thermal Receipt Paper and Eating Food after Using Hand Sanitizer Results in High Serum Bioactive and Urine Total Levels of Bisphenol A (BPA)
Annette M. Hormann, et al.,
PLoS ONE 9(10): e110509. doi:10.1371/journal.pone.0110509
http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0110509
実験前48時間は感熱紙を触ったり缶詰やプラスチック容器に入った飲食物を避けるよう指示されたボランティアに洗って乾かした手あるいはハンドサニタイザー(63%エタノール)を使った直後(ぬれた状態)に感熱紙を最大240秒触ってもらってさらにフレンチフライを食べる、という実験。経皮吸収を促進する物質が共存すると吸収が増える
(ここまでなら普通だがさすがvom Saalチーム、その後に「これが多様な発達の異常や成人の疾患リスク増加と関連する」、と続ける。)