食品安全情報blog過去記事

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甲状腺がんの流行?

NYT
An Epidemic of Thyroid Cancer?
By H. GILBERT WELCHNOV. 5, 2014
http://www.nytimes.com/2014/11/06/opinion/an-epidemic-of-thyroid-cancer.html?ref=todayspaper&_r=1
歴史的には疫学は感染症の流行を同定しコントロールするためのものだった。NEJMに私と同僚が発表したばかりの研究では疫学者のもう一つの重要な仕事に焦点を当てている:医療の流行を同定しコントロールすることである。
韓国では過去20年に甲状腺がんの発生率が15倍になった。このような早さでがんの発生率が増加した地域は他にはない。我々は病気が増えたらその生物学的原因−新しい感染源や環境暴露など−を探すようにと教えられてきた。しかし韓国で見られたのは診断の流行だった。
1999年に政府はがんやその他の病気を減らすために全国スクリーニング計画を始めた。その計画に甲状腺がんスクリーニングは入っていなかったが、それは簡単で首の超音波検査だけで済む。病院や多くの医院には超音波検査装置があったため、政府の計画への安価なオプションとして甲状腺スクリーニングが行われた。売るのは簡単で、政府や医療業界、ニュースメディアそしてがん「サバイバー」ががんの早期発見を褒め称えた。
その結果意図せず早期発見の大きな有害影響を明るみに出した。かつて希ながんだった甲状腺がんは今は韓国で最も多いがんになった。
この新しい甲状腺がんはどこから来たのだろうか?それらはずっとそこにあった。1947年という早い時期から病理学者は滅多に死因にはならないものの甲状腺がんが剖検で良く見つかることを認識していた。その後の研究では成人の1/3以上が甲状腺がんをもっていることを示してきた。これらのがんはほとんどが小さな「甲状腺乳頭がん」でその多くはその人が生きている間は明らかにはならない。
超音波スクリーニングを受けなければ。実際韓国で新たにわかった甲状腺がんのほぼ全てが甲状腺乳頭がんである。どうしてこれが真の病気の流行ではないとわかる?韓国で甲状腺がんで死亡するヒトは変わっていないからである。もしスクリーニングで命が救われたなら死亡率が減るだろう、あるいは流行が拡大するに連れて死亡率がゆっくり上がっていくだろう、しかし完璧にフラットなままである。
診断の流行は誰の健康にとっても良いことではない。リソースが無駄に使われ人々は必要もなく恐怖におびえる。しかしより大きな問題は治療の流行である。
甲状腺がんと診断されたヒトの多くが甲状腺を除去している。甲状腺は重要な臓器で代謝を調節するホルモンを作っている。甲状腺がないと患者は生涯にわたって補充療法を受ける必要がある。医師がその人に適した量をみつけるにはしばらくかかり、その間患者は甲状腺ホルモンの過剰または過小で苦しむ。また頻度は少ないが手術による合併症もある。韓国と米国では約10%の患者がカルシウム代謝に問題を生じ約2%が声帯の麻痺を経験する。そしてあらゆる手術同様、肺血栓や心臓発作、脳卒中という命に関わる影響はおこりいうる。甲状腺手術1000回当たり約2人が死亡する。希ではあるが確実におこる。
韓国でおこったことがここでもおこるか?確実に。一致協力したスクリーニングの薦めは行われていないが米国でも甲状腺がんの発生率は1975年以降3倍になった。この傾向を逆転させるためには積極的に早期甲状腺がん検診をやめるよう薦めなければならない。
早期発見が素晴らしいことだという思いこみは非常に根深く魅力的なので多くのヒトが検査は良いことしかないと考えている。しかしそれは事実ではない。韓国での経験はがんの早期発見の負の側面を明らかにしている:過剰診断と過剰治療である。この問題は甲状腺がん前立腺がんで最も大きい。しかし肺がん、乳がん、皮膚がん、腎臓がんでも存在する。そしてスクリーニングには不安が伴う−それは健康に良くはない。
もちろんスクリーニングが意味のある場合もある。特にハイリスクの人たちには−つまり家族歴で複数の人ががんで死亡している人たち。平均的リスクで長生きすることが予想される人は将来利益がある可能性があり、不必要な治療による有害影響の可能性を喜んで受け容れる人たちにとってもスクリーニングは意味があるかもしれない。
しかし早期発見に興味のある人はどれだけ早ければいいのかについても考えた方が良い。もちろん大きな塊になってから見つけるより乳腺の小さなしこりでがんが診断できた方がよい。しかしそれを顕微鏡で見つけるところまで拡大するのは過剰だろう。韓国でみつかった甲状腺がんの多くは1センチより小さい。もしもっと早期のものを探したらもっとたくさん見つかるだろう。そしてどこかで見つからないまま放置していた方がよいほど見つけすぎる。つまり医師に早期がんを一生懸命探さないで欲しいということがあなたの関心になる。
ここに疫学が参加する。あまりにも多くの疫学者が感染症コントロールではなく環境暴露による小さな健康影響、あるいはさらに悪いことに小さな遺伝的変異の不確実な影響を見つけようとしている。彼らはもっと重要なヒト健康リスクを監視すべきだろう、つまり医療の流行を、である。

Korea's Thyroid-Cancer “Epidemic” — Screening and Overdiagnosis
N Engl J Med 2014; 371:1765-1767November 6, 2014
Hyeong Sik Ahn et al.,
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMp1409841
(長いけど重要なので。福島の子どもの甲状腺がんスクリーニングの対照に他の地域の子どもを大量スクリーニングしろと言っている人たちがいるので。福島のスクリーニングですら害の方が大きいだろうに。)