食品安全情報blog過去記事

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英国と米国の過去の脂肪に関する食事助言を検討した研究についての専門家の反応

SMC
expert reaction to study looking at historic UK and US dietary advice on fats
February 9, 2015
http://www.sciencemediacentre.org/expert-reaction-to-study-looking-at-historic-uk-and-us-dietary-advice-on-fats/
1983年以前に発表された食事脂肪・コレステロール・冠動脈心疾患に関連する根拠を吟味したレビューがOpen Heartに発表された。著者らは英国で1983年に導入された食事助言は根拠に基づいていないと結論した。
Reading大学ヒト栄養学教授Christine Williams
1970年代から80年代に導入された食事脂肪に関するガイドラインはしっかりした科学に基づいていないという主張は見当違いで危険である可能性がある。食事と心疾患に関する根拠を吟味し続けることは重要であるが、それは根拠の全体的評価によるべきであり過去30年間のコレステロール濃度の明確な改善についても認めるべきである。飽和脂肪を砂糖に置き換えることの懸念については正当でありこれについては将来別のアプローチを検討する必要があるだろう。
Harcombeらによる飽和脂肪と心疾患による死亡率のRCTのメタ解析では、エビデンスについて古典的な医薬品としてのアプローチを用いている。しかしエディトリアルで指摘されているように集団ベースの助言には多くの場合それは不適切で、食事ガイドラインは多数の根拠のエビデンスの一貫性を考慮して開発されている。
George’s Hospital NHS Trust主任栄養士Catherine Collins
Harcombeらは30年以上前の文献を今日のツールで解析して興味深いレビューを提示した。当時は家で伝統的な「肉と野菜2種類」の料理をし喫煙は当然で食事からコレステロールを摂ると血中コレステロールが上がるという間違った仮定が信じられていた。
当時と違って今は集団ベースの研究は数万人を何十年にもわたって調査していて知見の正確さは向上している。
著者らの主張にはいくつか間違いがある。英国の1991年のガイドラインは健康的な食事として総カロリーの35%を脂肪としていてそれは現在の我々の平均摂取量である。これは1970年代後半の40%よりは少ない。
一般の人々は、現在の食事助言が30年前の欠陥のせいで問題があると心配すべきだろうか?そんなことはない。医学知識は増え研究は1980年代の単一栄養素を悪者にする時代から遠く離れた。現代の食事助言は「食生活全体」を対象にしている。現代の集団向けの健康的な食生活助言は栄養素ではなく食品についての助言が基本である。
Cambridge大学MRC疫学ユニット栄養疫学プログラムリーダーで公衆衛生相談医Nita Forouhi博士
著者の試みにはいくつかの限界があり現在の食事ガイドラインはこの研究によって影響されるべきではない。公衆衛生のメッセージは入手できる多様な根拠に基づくべきで、助言による食生活の変更は難しく、試験の条件は必ずしも現実世界を反映しない。全ての食事助言にRCTの根拠が必要となったら多くの公衆衛生メッセージが不可能になる。
Open大学応用統計学Kevin McConway教授
この研究は30年前の助言がRCTによる根拠に基づいていないことを示してはいるが、当時のガイドラインが何の根拠もなかったということを意味しているわけではない。政策の根拠になるのはRCTだけではない。
現在の我々にとって重要なのは、2015年までに入手できる根拠が現在の食事ガイドラインを支持しているかどうかである。支持しているのならかつては根拠がなかったとしてもガイドラインを維持すべきだし、支持していないのなら変えるべきである。エディトリアルによると今日の状況もそれほど明確ではない。
食品研究所所長代理Richard Mithen教授
食事助言のほとんどはRCTに基づいていない。疫学研究は解釈が難しいのは事実だがRCTは実施が難しい。食品は医薬品より複雑である。
British Heart Foundation上級栄養士Victoria Taylor
食事と健康の関係を理解するのは簡単ではない。医薬品の試験と違って食事と病気の研究は難しい。数千人を何年も食事を管理して観察するのはほぼ不可能である。だから英国の食事ガイドラインもRCTのみに基づいているわけではない。脂肪に注目されているが、心疾患の予防や管理には脂肪だけが関わるわけではない。単一の食品や栄養素だけで心疾患のリスクが決まるわけではない。我々は食生活全体に関心を寄せる必要がある。
Robert Gordon大学Iain Broom教授
CHD対策としての低脂肪食への批判はこの論文だけではない。EPIC研究でも同様の結論になっている。むしろさらに乳製品由来の飽和脂肪には保護作用があると言っているのに英国も米国もバターやチーズや全脂肪乳がCVDリスクを上げると主張して実質的に乳産業を破壊した。脂肪を減らして必要なカロリーを摂ると炭水化物の摂取量が増え、インスリンの需要が増えて動脈硬化しやすい。世界中の多くの医師が脂肪を減らせという助言が2型糖尿病増加に寄与したと考えている。米国と英国の政府は低脂肪を主張し続けているがスウェーデンは炭水化物を総エネルギーの26-40%に減らすよう方針を変更した。
Liverpool大学臨床疫学Simon Capewell教授
この研究が主張する一つの正しいことは初期の英国と米国の食事脂肪助言はRCTによる根拠はないということである。しかしエディトリアルで指摘されているように多くの重要な欠点がある。
King’s College London栄養名誉教授Tom Sanders
著者らは総合的根拠について考慮していない。1970-80年代は英国やそのた西欧諸国が冠動脈心疾患の流行に苦慮していた時代である。そしてそれが喫煙、特に血中コレステロール濃度が高い時、によるという圧倒的根拠はあった。現在心血管系疾患は当時より減った。助言では脂肪を砂糖や精製炭水化物に置き換えるようには言っていない。脂肪の多い肉を脂身の少ないものに、低脂肪乳を選び、植物油を使うようにと薦めた。これは今でもカロリーを減らすのに有効である。現在は血中コレステロールを減らすには食事より有効な方法(スタチン)がある。しかし体重を減らすのは心血管系疾患予防に有効である。
食品研究所名誉研究員Ian Johnson博士
(略)
Sheffield大学顧問心臓医Tim Chico博士
著者らは40年以上前まで遡ってガイドラインを検討するという普通でないアプローチをしている。RCTが最も信頼できるというのは事実だがそのような試験がほとんどない場合には他のエビデンスが利用される。食生活についてのRCTは非常に難しい。将来にわたって、長期の健康にどのような食生活がベストなのかを確実に言えることはないだろう。

(白熱している。しかし総カロリーの30%で低脂肪と呼ぶ世界と、日本はどれだけかけ離れていることか。)