食品安全情報blog過去記事

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The Lancet:広島長崎から福島まで−核災害の長期精神影響について強調するシリーズ

The Lancet: From Hiroshima and Nagasaki to Fukushima -- Series highlights long-term psychological impact of nuclear disasters
30-Jul-2015
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2015-07/tl-tlf072915.php
広島と長崎の原爆投下から70周年を迎え、The Lancetは、最新の2011年の福島第一原子力発電所事故を含む、核災害の永続する放射線による及び精神的影響について探った、3部からなるシリーズを発表する。このシリーズは世界中で現在稼働中の437の原子力発電所周辺地域に住む何百万人の人々を守るために将来の災害に備える公衆衛生計画にとって必須の情報を提供する。
原子力発電所事故は滅多に起こらないが、過去60年でレベル5以上の5つの重大事故がおこった--Kyshtym (ロシア, 1957), Windscale Piles (UK, 1957), Three Mile島 (USA, 1979), Chernobyl (Russia, 1986), そして福島 (日本, 2011)である。
シリーズのうちの一つ(論文2)では福島医大Koichi Tanigawa博士らの放射線防護専門家チームが核災害のしばしば見過ごされている側面−事故の影響を受けた地域に住む人々の精神的負担について議論している。2006年に国連チェルノブイリフォーラムの報告書は、事故の最も重大な公衆衛生問題は精神保健への悪影響で、放射線に関連する健康リスクについてのコミュニケーションのまずさによりさらに拍車がかかったと結論している。鬱やPTSDは事故後20年経っても高いままである。同様の問題が福島でもみられる。福島健康管理調査では成人で精神的苦痛を感じている人の割合は一般人(3%)に比べて避難者で約5倍(14.6%)である。また著者らは繰り返す避難と長期の自宅からの隔離が最も弱い人々にとって重大な健康問題−避難から最初の三ヶ月で高齢者の死亡が3倍に増えた−につながったことを強調している。Tanigawa博士によると「福島の一般の人の放射線量は比較的低く、感知できる身体への影響はないと予想されるにも関わらず、主にリスク認知の違いから生じる心理的社会的問題が人々の生活に壊滅的影響を与えた」
もう一つの論文では福島医大Akira Ohtsuru教授らが、次の核災害で放射線に暴露される可能性のある人々を守るために何ができるか、どうすれば身体的精神的健康への害を最小化できるかを検討している。子ども達のがんを心配する親への対応や避難者の新しい場所への適応援助などを含む。著者らによると福島の教訓は学ばなければならない。「医療関係者の重要な仕事の一つは、ほとんどの核事故では命に関わる放射線量を浴びた人はごく僅かであることを信頼できるやり方で伝えることである。医師は住人が健康リスクを理解するのを助ける重要な役割を果たさなければならない。福祉施設や病院の脆弱な人々を大量に避難させるには注意深い計画と適切な医療サポートが必要である。さらに自宅から移った住人のメンタルヘルス調査とケアの提供が必須である」
もう一つの論文では広島大学副学長のKenji Kamiya教授らが広島長崎の原子力爆弾とチェルノブイリ事故の二つの歴史上最大の核災害の放射線による長期健康影響を報告している。原爆投下から5年後の1950年から現在まで原爆生存者94000人をフォローしている日本人生涯研究では、生存者のがんリスクは明確に増加している。リスクは固形がんについては線量に比例し、子どもや若い時期に暴露された場合には高い。チェルノブイリ後では食品中の放射線暴露による子どもの甲状腺がんリスクが増加した。生存者の子ども達に遺伝影響はこれまで検出されていない。著者は中用量から高用量の放射線(0.1-0.2Gy以上)暴露後のがんリスクが有意に増加する根拠を提示しているが、より低い線量(0.1Gy以下)ではリスクが増加しているのかどうかはわからない。低線量での影響はわからないため、核災害の健康影響を知るだけではなく医療や職業の防護基準を作るためにも、現在実施中の研究は非常に重要であると結論している。

  • 広島長崎の原爆70周年の、核災害の影響に関するLancetレビューシリーズへの専門家の反応

SMC
expert reaction to Lancet series of reviews on impacts of nuclear disasters, around the 70th anniversary of the atomic bombs in Hiroshima and Nagasaki
July 31, 2015
http://www.sciencemediacentre.org/expert-reaction-to-lancet-series-of-reviews-on-impacts-of-nuclear-disasters-around-the-70th-anniversary-of-the-atomic-bombs-in-hiroshima-and-nagasaki/
Lancetに発表された3つの論文が核災害の健康影響と教訓を扱っている。そのような場合、生存者はがんやPTSDを含む身体的精神的社会的負の影響を生じるリスクが高くなる。これらの論文は、災害後労働者や脆弱な人々や住人を守るために意志決定の助けをするため、医師は核災害にどう取り組むかについて訓練を受けるべきだと結論している。
心理学的側面について、UCL心理学名誉上級講師で臨床心理学者のJames Thompson博士
この論文について私は以下に注目する「対象者は2011年は210189人、2012年は211615人。質問は郵送し回答は2011年は子ども63.4%、成人40.7%、2012年は子ども41.0%成人29.7%から回答があった」。これは健康調査としてはそんなに悪くはなく、2011年の子どもは妥当だが次の年は十分高くない。これ自体が物語っている。成人回答者の41%は集団のトラウマの推定をするには低すぎ、多分過剰推定だろう。
より広範には、我々はよりオペレーションと意志決定にフォーカスしたアプローチをするもう一つの論文を必要とする。もし核のリークが疑われる場合、当局は政治的に自分自身を守るためであっても避難を薦めるだろう。しかし我々に必要なのは避難による社会生活の破壊を上回る利益のある放射線レベルについてのより良いガイドラインである。私の感覚では避難や警報はあまりにも簡単に行われた。「健康が損なわれたという感覚」の心理学的帰結は非常に大きい。
グラスゴー大学核物理学研究グループ長物理学教授David Ireland教授
広島の核攻撃から70年というのは放射線暴露による健康影響についてわかっていることをまとめる良い機会だろう。そして重大な原子力発電所事故への対応をどう改善できるかをレビューするのも重要である。しかしながら広島長崎と福島を比べるのは不適切である。共通の脅威は放射線暴露だが、何度も言及されているように、原子力発電所の事故の最大の問題は心理的ストレスと強制避難に由来する。日本の「風評被害」という概念に象徴される様に、この原因はほとんどメディアによるセンセーショナルな報道である。津波で15000人以上が死亡したことを忘れるな、福島の事故による直接の死亡はゼロである。
Dudley Goodhead  MRC Harwell客員教授
このシリーズは有用なまとめである。これらはイオン化放射線による直接の健康影響のリスクはよく理解されているが、故人や社会への広い影響は広範で予想が困難であるという事実を強調している。
King’s College London’s 心理学神経科学研究所精神医学教授Simon Wessely卿
これは核事故の精神的社会的帰結が放射線の直接影響より大きく、長く続き管理が難しいことを示す。将来、コミュニティの関与や選択により注意を払い、極端なリスク忌避を減らす必要がある。過剰反応や過剰予防も過小反応同様重大な長期影響がある。
Imperial College London分子病理学Geraldine Thomas教授
(略)
福島から学ぶ必要がある教訓は、想定されるリスクではなく実際のリスクのコミュニケーションが重要だということである。メディアにも科学コミュニティにも果たすべき役割がある。見出しの極めて感情的な言葉や矛盾したシナリオの報道は福島の住人の役にたたない。実際のリスクを文脈に沿って伝えないメディア報道は今でも役にたたない。しかしジャーナリストは専門家ではないので、責任ある人に到達できるようにする必要がある
(将来のエネルギーの話略)

エディトリアル
A nuclear shadow from Hiroshima and Nagasaki to Fukushima
Volume 386, No. 9992, p403, 1 August 2015
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(15)61429-5/fulltext

Long-term effects of radiation exposure on health
Kenji Kamiya et al.,
Volume 386, No. 9992, p469–478, 1 August 2015
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(15)61167-9/abstract

Health effects of radiation and other health problems in the aftermath of nuclear accidents, with an emphasis on Fukushima
Arifumi Hasegawa et al.,
Volume 386, No. 9992, p479–488, 1 August 2015
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(15)61106-0/abstract

Nuclear disasters and health: lessons learned, challenges, and proposals
Akira Ohtsuru et al.,
Volume 386, No. 9992, p489–497, 1 August 2015
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(15)60994-1/abstract

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