食品安全情報blog過去記事

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論文

  • カルシウムの摂取量を増やすことが骨の健康を増進したり骨折を予防したりしそうにない、と専門家が言う

Increasing calcium intake unlikely to boost bone health or prevent fractures, say experts
29-Sep-2015
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2015-09/b-ici092515.php
BMJに今週発表された二つの研究が、カルシウムの摂取量を増やすことが高齢者の骨の健康向上や骨折予防になりそうにないと結論した。これらの結果は骨折予防のためのサプリメントや食事からのカルシウムの摂取は薦めるべきではないことを示唆する。
ガイドラインでは高齢者は骨密度を上げ骨折を予防するための1日1000-1200 mgのカルシウムを摂るようにと助言している。カルシウムサプリメントについては安全上の懸念があるため、専門家はサプリメントではなく食事からカルシウムを摂るように助言している。
ニュージーランドの研究者らが食事またはサプリメントで余分なカルシウムを摂った試験や観察研究のデータを解析した。最初の研究では骨密度への影響を、二つ目の研究では骨折リスクへの影響を検討した。カルシウム摂取は骨密度の1-2%の小さな増加につながるが臨床的に意味のある差とは言えない。骨折リスクとは関連がなかった。
エディトリアル
カルシウムサプリメントは骨折を予防しない
Calcium supplements do not prevent fractures
Karl Michaëlsson
BMJ 2015;351:h4825
http://www.bmj.com/content/351/bmj.h4825
普通のバランスのとれた食生活以上の摂取量を薦めることには再考
カルシウムは多くの生物学的プロセスにとって必須であり、排出量を補うだけの摂取量は必須であるが、カルシウムの必要量については何十年も議論がある。25年前にBMJで骨折予防のためにカルシウムサプリメントを摂ることは入手可能な根拠からは正当化できないと結論した。この見解はサプリメント支持者から批判された。しかし今回発表された二つの研究によると、この結論は今でも真実である。
(略)
現在の英国及び北欧の公式助言成人1日700-800mgが現在では十分なようである。これは普通のバランスの取れた食生活で達成できる。米国骨粗鬆症財団などは50才以上の女性に1200mg以上を薦めていて、これを食事だけで達成するのは難しく、その結果多くの中高年米国人女性はカルシウムとビタミンDサプリメントを摂っている。根拠がないのに薦めている理由の一つはサプリメント業界が重要な学者に影響を与えていることである。高齢者に大規模に薬品を投与することは良くないという根拠が集積している中で、カルシウムサプリメントについての助言は再考すべきである。

Calcium intake and risk of fracture: systematic review
Mark J Bolland et al.,
BMJ 2015;351:h4580
http://www.bmj.com/content/351/bmj.h4580

Calcium intake and bone mineral density: systematic review and meta-analysis
Vicky Tai et al.,
BMJ 2015;351:h4183
http://www.bmj.com/content/351/bmj.h4183
(年をとってからカルシウム摂っても手遅れという話)

  • がん研究における8つの大きな質問

Eight big questions in cancer research
29-Sep-2015
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2015-09/cp-ebq092915.php
Trends in Cancer創刊号
1.患者のがんの原因となる変異を知ることで治療方針を決められるか?――まだまだ
2.異なるがんを一連の共通の性質にまとめられるか?−がんには不死、自己だけで増殖、増殖抑制信号への感受性の喪失、組織への浸潤・転移、無限増殖、血管新生、に加えて異常な代謝、免疫系から逃れられる、などの特徴がある。しかしがんはひとつの病気であるという考えは幻想である。
3.何故がん微少環境について考慮すべきなのか?−がん細胞は単独で存在するわけではない
4.エピジェネティクスの役割は?−将来エピジェネティック治療も行われるかも
5.がんとの戦いにおいて免疫療法はターニングポイントか?−大きな課題はあるが他の治療法と組み合わせて使えるようになる期待はある
6.p53は?−10年前、p53の役割は明確なように見えたが今や多くのことがわかってより複雑になりp53を標的にした今の薬は確かに効果はあるが副作用も強く耐性ができる。さらなる研究が必要。
7.がん細胞の代謝の違いを利用できるか?−可能だが正常細胞にも影響するので副作用はある
8.マウスモデルはヒトのがんの研究にまだ意味があるか?−マウスは小さなヒトではない。しかしメカニズムについての知見を得ることはできる

  • 多くの米国ワインにヒ素が含まれるが、健康リスクは食事全体による

Arsenic found in many US red wines, but health risks depend on total diet
29-Sep-2015
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2015-09/uow-afi092915.php
カリフォルニア、ワシントン、ニューヨーク、オレゴン産の65のワインを調べたワシントン大学の新しい研究によると、1つを除いて全てから飲料水基準を超えるヒ素が検出された。EPAの飲料水基準は10 ppbヒ素であるがワインの濃度は10-76 ppb、平均24 ppbであった。しかし同時に行われた研究では、健康リスクの可能性はリンゴジュースやコメやシリアルバーなどの他の食品をどれだけ食べているかに依存する。最もリスクが高いのはある種の乳児用ミルクの場合だった。
二つの論文はJournal of Environmental Healthの2015年10月号に発表。
ヒ素暴露が多いのは成人ではコメをたくさん食べる人、乳児ではオーガニック玄米シロップ(高果糖コーンシロップの代用品として使用されている)を用いたミルクを飲む場合。
著者のDenise Wilson電子工学教授(?)は「ワインにヒ素が入っているとワイン醸造業者を訴えようと考えることはあなたの裏庭に石があるからと誰かを訴えるようなものだ。私の目標は人々が批判すべき人を探すことから離れて、自分たちが何を食べているのかをより良く理解してその食事に由来するリスクを最小化するにはどうすればいいかを考えるようになることだ」という。
(この計算だと日本人のほぼ全員がコメ由来の無機ヒ素でアウトではあるのだが、この人の言うことはそのとおり。○○が悪いとかいう言説は意味がない)