食品安全情報blog過去記事

はてなダイアリーにあった食品安全情報blogを移行したものです

IARCの発表に関連する情報

  • 加工肉とがん−あなたが知っておく必要のあること

Cancer Research UK
Processed meat and cancer – what you need to know
October 26, 2015
http://scienceblog.cancerresearchuk.org/2015/10/26/processed-meat-and-cancer-what-you-need-to-know/
あなたは多分加工肉ががんの原因であることが決定的になったという今日のニュースの見出しを見ただろう。そして赤身肉は「多分」がんの原因だと。
この決定は権威ある国際機関によるものでメディアで多く報道されていて先週から予想も飛び交っていた。しかしある種の肉とある種のがんの関連−特に大腸がん−は新しいニュースではない。根拠は何十年にもわたり蓄積してきていて多くの研究が支持している。
それでも今日の発表には意味がある。IARCの決定は政府や規制機関に影響力がある。
しかしこの知見は実際のところどんな意味があるのか?どのくらいの肉を食べるのがいいのか?そしてどのくらいのがんが肉の摂取と関連するのか?この記事ではIARCの分類の意味、赤身肉や加工肉がどうがんリスクに影響するのか、その影響の大きさについて見てみよう。
しかしそのまえに明確にしておきたいことがある:確かに長期間にわたる肉の多い食生活はあなたにとって良くない。しかしステーキ、ベーコンサンド、ソーセージパンを週に数回食べることは心配に及ばない。喫煙などのほかのがんリスクに比べればずっと少ない。
赤身肉と加工肉とは何か?
赤身というのは調理する前の肉の色が濃い赤である肉で、牛肉、羊肉、豚肉を含む
加工肉は生鮮として販売されていなくて塩漬け、燻製など保存のための加工をされたもので、挽肉や作りたてハンバーグは含まない。
どちらもチキンやターキー、魚とは違う。
これまでの根拠
最も多く加工肉を食べる人が大腸がんになるリスクは最も少なく食べる人の約17%高い。17%というのは相対リスクで、それを絶対リスクに変換すると、英国では1000人中61人が生涯のどこかで大腸がんになる。加工肉を食べる量が最も少ない人は1000人中56人である。最も多く食べる人では66人となる。
どうやって赤身肉や加工肉ががんを誘発するのか?
まだ正確なメカニズムはわかっていないが容疑者は肉に含まれる化合物である。赤身肉にはヘムという血液色素が含まれる。我々の腸内で分解されるとN-ニトロソ化合物と呼ばれる一連の化合物になる。これらが腸に沿って並ぶ細胞を傷つけるので余分に分裂する必要がある。この余計な複製がDNAの間違いの確率を上げる。さらに加工肉には亜硝酸塩のようなN-ニトロソ化合物を作る化合物が加えられている。
またグリルやバーベキューなど肉を高温で調理すると、発がん物質が生じる。これらは他の肉に比べて赤身肉や加工肉で多い。
しかし他の理論もある−赤身肉の鉄が関与しているという説、あるいは腸内細菌が関与しているという説などである。
そしてあなたが聞いたかもしれないことと違って、それは肉の質には関係なく、あるいは地元の肉屋で買ったかスーパーマーケットで買ったかとも関係がない。これまでの根拠が示唆しているのは、多分肉の加工、あるいは天然に肉に存在する化合物が、がんリスクを上げるということである。
IARCのこの決定が意味するものは?
カニズムがどうあれ、今やIARCが加工肉についてはがんの原因だと断定するのに、赤身肉については「多分」原因だとするのに十分な根拠がある。しかしその意味するところ(と意味しないこと)を真に理解するためにはIARCの分類について知る必要がある。
(分類についての説明略、インフォグラフィクスがある)
文脈を理解するために、タバコと比較してみよう
(インフォグラフィクス)
2011年に科学者は英国人100人あたり約3人が赤身肉と加工肉の食べ過ぎでがんになっていると推定した。これは年に約8800例で、喫煙によるがんは年に64500例である。
これは食事の時に何を意味する?

赤身肉や加工肉はまだ健康的な食生活の一部になりうるか?
このことは一回の肉がメインの食事が「あなたに悪い」ことを意味しない。定期的に大量の赤身肉や加工肉を長期間食べ続けることは多分長く健康に生きるための最良の方法ではないだろう、ということを意味する。肉を適量食べるのは良いことだ−それはタンパク質や鉄や亜鉛の良い摂取源である。賢明に食べようということで、食べ過ぎないこと。
ではどのくらいなら「賢明」なのか?これは答えるのが難しい質問だ。これまでのところがんリスクについては特定の量についての根拠はなく、ただ「多すぎる」といった具合である。全体として我々が言えるのは食べる量が少なければリスクが低いということだ。一連の健康影響を考慮して、政府は1日に調理後の重さで90g以上の赤身肉や加工肉を食べている人は70g以下に減らすように助言している。
(食事中の肉の量についてのインフォグラフィクス。)
もしあなたが肉の多い食事をしていてがんが心配なら、減らしてもいいかもしれない。このことは豆腐を買い込むことを意味するのではなく少しサイズを小さくするだけ、あるいはチキンや魚を選ぶことでいい。
我々の食生活に関する助言は変わらない:たくさんの食物繊維、野菜、果物を食べ、赤身と加工肉と塩を減らし、飲酒を制限すること。つまらないかもしれないが事実だ:健康的な生活はなにごともほどほどに、である。
例外は喫煙で、これはいつでも悪い。

  • WHO報告:赤身肉はがんと関連−専門家の反応

SMC NZ
WHO report: Red meat linked to cancer – Expert reaction
October 27th, 2015.
http://www.sciencemediacentre.co.nz/2015/10/27/who-report-red-meat-linked-to-cancer-expert-reaction/
IARCが赤身肉と加工肉の摂取とがんの関連について評価した
赤身肉をグループ2A、加工肉をグループ1と分類した。
Cancer Research UKがこの分類について文脈をふまえた良いまとめをしている。
我々はニュージーランドの専門家の意見を集めた
独立コンサルタントで登録栄養士Barbara Thomson博士
これは多数決による結論で合意ではなくIARC会合の専門家の中には合意しない人もいる。評価された研究の半分は赤身肉の摂取とCRCに正の関連を示した。つまり半分では関連はなかった。評価された研究の2/3では加工肉の摂取とCRCに正の関連があった。1/3では関連はなかった。我々は単一の食品を単独で食べているわけではない。これらのエビデンスの著者らがどれだけ上手に交絡要因(野菜や果物、家禽、魚、飲酒、調理法、肥満、運動)を扱ったのだろうか?増加するがんリスクは低い(17と18%)。従って上述のライフスタイル要因も同様にがんリスクを下げるのに重要である。赤身肉摂取の利益(タンパク質や微量栄養素)も考慮すべきである。
レビューで示唆された発がんメカニズムはそれほど説得力のあるものではない:調理法は家禽や魚にもあてはまり、亜硝酸塩は加工肉由来より野菜由来のほうが多い(そして野菜は我々にとって良い)。家禽や魚も、赤身肉より少ないとは言えヘムを含む。
利益相反:独立専門家としてニュージーランド牛肉羊肉協会の仕事を請け負っている)
オークランド大学生物統計教授Thomas Lumley教授
IARCの分類は新しい根拠に基づくものではなく驚くべきことでもない。科学者はもう長い間燻製、塩漬け、あるいは加工肉が直腸結腸がんリスクを上げ肉を多く食べるとリスクが幾分上がると信じてきた。IARCのプレスリリースは増加するリスクは個人的視点では小さい(毎日加工肉一食分で約1.2倍)ことを確認した。ただし肉を食べる人は多いので公衆衛生上の意味はある。英国がん研究協会はもし誰も赤身肉や加工肉を食べなければ大腸がんの21%と全てのがんの3%が予防できるだろうと推定している。
一部の報道では新しい加工肉の分類を他のグループ1発がん物質のリスクと関連させようとしている。そのようなことは正しくない。IARCの分類は根拠の強さにのみ基づくもので、効果の大きさについては考えていない。グループ1発がん物質というのはその強さには関係なく、がんのハザードが明確だと考えられているものである。グループ1にはタバコ、プルトニウム、日光、経口避妊薬、アルコールがある。
IARCのQ & Aでこの分類は全てが同じように危険だという意味ではないと言っている。肉を食べることの発がんリスクを他のグループ1発がん物質を持ち出して説明するのは一般の人々の理解にとって役にたたないだろう。
オークランド大学オークランドがん学会研究センター栄養教授Lynnette Ferguson教授
ニュージーランドでは、赤身肉や加工肉を多く食べる人の大腸がんリスクは高いという根拠がある。またニュージーランドでは大腸がんはよくある。がんの原因が肉そのものであるかなにか同時に起こっているものであかについては判断できない。
ポイントはバランスの問題であるということで、もしあなたがいつも加工肉や赤身肉ばかり食べて野菜や果物をほとんど食べないなら、リスクは高いだろう。しかし全体を見ると、肉は食生活の重要な一部であり、一部の成分だけでなく食生活全体をみることが重要である。喫煙は危険であることに疑いはないが肉はタバコではない。肉や加工肉しか食べないのは危険であるがそのような食生活はない。肉とタバコは一緒にするのは誤解のもとである。
ニュージーランド肉加工業者協会とニュージーランド牛肉羊肉協会を代表してFiona Griegからの声明
私達はIARCの発表を認めているがニュージーランド人にとっての文脈で考える必要がある。
最初に、この分類は既存の研究に基づくコンセンサス声明で新しい根拠ではない。我々は赤身肉と加工肉の関連は弱く一貫しておらず因果関係ではないと理解している。
さらにこの評価はハザード解析であり、肉を食べることによる多数の栄養上のメリットは考慮されていない。それらには生涯に必要な質の高いタンパク質や生物学的利用度の高い鉄や亜鉛などがある。多くのニュージーランド人は、特に女性と若い女性で、食事からの鉄が不足しているので肉の摂取に関する助言の才には考慮する必要がある。
IARCの知見では毎日50gの加工肉を食べることはがんリスクが少し増加することを示唆するが、ニュージーランド人の摂取量は半分以下の22g/日である。
赤身肉については毎日100gで17%のリスク増が示唆されているが国民栄養調査データによると我々の食べる量は牛肉41g/dとラム9g/dであり、がんリスクが増えるためには今の二倍以上食べなければならない。
がんの原因は多く複雑で、単一の食品を排除するよりライフスタイル要因のほうが重要であろう。これらの要因には健康体重の維持、定期的運動、禁煙、節酒がある。
従って活動的で健康的なライフスタイルの一環として適切な量の脂身の少ない肉や加工肉はたくさんの野菜や果物と一緒のバランスの取れた食生活の一環として楽しみ続けられる。
食習慣やがんリスクが心配なら栄養士に助言を求めることを薦める
オーストラリアSMC
オーストラリアがん評議会栄養運動委員会座長Kathy Chapman
新しいWHOの解析はオーストラリアがん評議会が委託して今月初めに発表した研究と一致している。その研究では毎年2600の大腸がんが赤身肉と加工肉の摂りすぎによることを発見している。
国の健康医学研究評議会の現在の食事ガイドラインは調理した赤身肉を65-100g週に3-4回以上は食べないように薦めている。このガイドライン以内にすることを薦めるものの赤身肉を完全に避けることは薦めていない。脂身の少ない赤身肉は鉄、亜鉛ビタミンB12、タンパク質の良い供給源である。しかしながらそれに比べると加工肉は栄養が少なく脂肪や塩や硝酸が多い傾向がある。このため我々は加工肉については摂取量を減らすように助言している。
赤身肉や加工肉に関連するがんリスクは他のがんの原因との文脈で考えることが重要である。がん評議会の最近の研究では赤身肉と加工肉は年に約2600のがんの原因と考えられるが、タバコは11500で肥満と過体重は3900、アルコールは3200である。がんリスクを減らすには、食事を含む全体としての健康的なライフスタイルが重要である。
IARCの評価にオーストラリアからただ一人参加したオーストラリアがん評議会主任科学アドバイザーでニューサウスウェールズ大学女性と子どもの健康教授Bernard Stewart教授
誰もベーコンを禁止したりホットドッグに警告を表示したり豪州から牛肉を追放したりすることは提案していない。このWHOのレビューは長期にわたり赤身肉及び/または加工肉を食べることはがんリスクを上げるという説得力のある根拠を提供するものである。
この報告は1000のこれまでの研究を吟味した根拠に基づく。特定のがんリスクについて行われた医学及び科学文献の評価の中では最も複雑なもののひとつである。
この知見は根拠に基づいた食事ガイドラインを作る健康当局に対して新しい程度の確実性を提供する。
NHMRCの食事ガイドラインワーキング委員会メンバーRosemary Stanton博士
赤身肉に栄養があることは疑いがない。またそれを食事から排除する栄養学的理由はない。しかしながら世界がん研究財団の見解によると赤身肉と加工肉と直腸結腸がんの関連には説得力のある関連がある。また肉と心血管系疾患研究の結果から、オーストラリア食事ガイドラインでは生鮮赤身肉の摂取量を週に450gに制限するように薦めている。これは最近オーストラリアの男性で報告された平均摂取量700gより相当少ない。(この中に家禽や魚は含まない)
またガイドラインでは加工肉を基本的食品から「任意の」食品に移した。これらの食品は健康的な食生活にとって必須ではなく、排除する、少量または時々時々食べるべきである。過体重や小さい人、運動しない人にとっては任意の食品は必要ない。
Curtin大学栄養政策アドバイザーで世界がん研究財団インターナショナルのフェローChristina Pollard博士
IARCの評価はハザード評価でありグループ1はそれがヒトに対して発がん性があるというしっかりした根拠があるということを意味する。
グループ2Aはおそらくヒト発がん物質であることを意味する(ヒトでの発がん性について限られた根拠があり(正の関連はあるが交絡を否定できない)、動物実験で十分な根拠がある。)
暴露に関連したリスクは評価されていないので、同じグループのものを比較することはできない。グループ1のものは全てハザードはあるがリスクは異なる。
この知見はオーストラリア人の健康な食事助言にどういう意味があるか?
肉に関連するリスクは2013年の食事ガイドラインの才にレビューされている。がんやその他の慢性疾患と食品としてのメリットを検討し、加工肉は制限すること、脂身の少ない肉は週に最大455gまでと助言している。男性の平均摂取量は推奨量より多いので、ガイドラインでは平均20%少なく食べるよう薦めている
英国SMC
Open大学応用統計学教授Kevin McConway 教授
この分類の重要なポイントはこれがリスクが増加するという根拠の確からしさにのみ基づくものでどのくらいリスクが増えるかではない、ということである。IARCのグループ1には100以上の異なる物質があり、これらはがんリスクが増えるという根拠が十分であるとIARCが考えたものである。しかしあるものはリスクを大きく上げ、あるものはほんの少し上げる。
英国では生涯タバコを吸わないヒトは100人中約1人が肺がんになる。1日一箱吸う100人ならそのうち20人が肺がんになる。これはとても大きなリスクの増加である。こんどは英国人100人中6人が生涯のうち大腸がんになる。IARCのデータによると、もしこれらの英国人100人が加工肉を毎日50g余分に食べ始めるとそのうち7人が大腸がんになる。
確かに増えた。でもたった一人で、タバコほどの影響はない。それなのに何故タバコと加工肉は同じグループになるのか?単にどちらもIARCが何らかの影響が、大きくとも小さくとも、あるという根拠がしっかりしていると確信したからである。喫煙や加工肉以外にもIARCのグループ1には多くのものが含まれる。多くのものはほとんどの人が聞いたことがないような化合物だが中には家で石炭を燃やすとか塗装工として働くといったような身近なものである。これらのうちあるものはリスクが大きく他のものはそうではない。
同様にIARCは加工していない赤身肉をグループ2Aにした。これは「おそらく発がん性がある」と考えたということであるが、グループ1より根拠が弱いという意味しかない。グループ2Aにも膨大な化合物があるが、もしこれらが実際にがんを誘発するとしても、そのリスクの増加は大きいものもあれば小さいものもある。この中には除草剤グリホサートのような怖そうなものもあればシフト労働や理容師などの身近なものもある。ここでもまたリスクの大きさは小さいかもしれないことを忘れてはならない、実際IARCは決定的根拠があるとは考えていない(あったらグループ1になる)。
重要なことはこの発表は別に新しいことではないことである。新しい根拠が集まったわけではなく既存のデータを集めて根拠がどのくらい強力か決定した。そしてその知見を説明するモノグラフはまだ公表されていない。ただしIARCは彼らが我々が何を食べるべきなのかについて助言をしたわけではないと明言している。既に他の機関が助言をしている。この最新のニュースはそれ自体では何も変えることはない。
Reading大学食物栄養科学者Gunter Kuhnle博士
WHOの決定は加工肉の摂取ががんの原因になるという十分な根拠があるということを意味する。多くのメディアが報道しているような、ベーコンを食べることが喫煙と同じくらい悪いという意味ではない。このような報道は危険な過剰単純化である。加工肉を食べることは健康的なライフスタイルの一部になりうるが喫煙はそうではない。
1日3本のタバコを吸うことは肺がんリスクを6倍にするが(600%)、加工肉50gを食べることは直腸結腸がんリスクを20%上げる。これは公衆衛生上は意味があるが、恐怖を煽ることに使われるべきではない。
根拠はしっかりしている。観察や実験の広範な研究データが加工肉摂取が直腸結腸がんリスクを上げることを示している。相関関係は因果関係ではないからIARCの結論は欠点があるという批判はあたらない。この分類は観察研究だけでなく実験データも根拠にしているからだ。赤身肉についての根拠はこれより弱く「おそらく」とした。
では何故加工肉ががんを誘発するのか?ほとんどの加工肉は塩漬けにされていて亜硝酸塩を使っている。これが消化管でニトロソアミンを作る。ニトロアミン類の多くはDNAと反応する発がん物質で最終的には腫瘍をつくる。消化管でニトロソアミンが検出されている。さらニトロソアミンに特有の突然変異のパターンが直腸結腸腫瘍でみつかっている。
これは何を意味するか?多くの食品関連ニュース同様、短期的な摂取量への影響があるだろう。長期的には、この知見をリスク緩和対策につなげることが重要である。例えば食事ガイドラインや新しい肉の加工法開発など。食肉加工業者は既にEUの大規模出資による新しい肉製品の開発プロジェクトを行っている。
ケンブリッジ大学リスクの公衆認知Winton教授David Spiegelhalter卿
King’s College London 栄養学名誉教授Tom Sanders教授
オックスフォード大学Cancer Research UKの疫学者Tim Key教授
重複するので略