食品安全情報blog過去記事

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その他

  • 特集:雑誌の乗っ取り方

Scienceニュース
Feature: How to hijack a journal
By John Bohannon 19 November 2015
http://news.sciencemag.org/scientific-community/2015/11/feature-how-hijack-journal
インターネットのサーチエンジンができた頃からウェブサイトのなりすましはあった。しかしここ数年学術雑誌が標的にされている。普通はまず似たようなアドレスのウェブサイトを作る−例えばwww.sciencemag.orgの代わりにwww.sciencmag.org(eが一個足りない)のように。それからウェブのトラフィックを呼び込む。ところが公式ドメインを横取りする場合があって、そのような場合は疑っていない訪問者はパスワードや購読料金をだまし取られてしまう。どうやって見分けることができる?
この事例はイランのIT科学者Mehdi Dadkhahから情報を伝えられて確認した。最近乗っ取られた24の雑誌ドメインを確認した。このハイジャック方法の難しいところはやりやすい雑誌を見つけることだけで、それがわかれば簡単である。
あなたが信頼できるサイトかどうかを見分けるには、Web of Scienceのような信頼できる雑誌のリストを参照することである。

Why you shouldn’t always listen to dietary guidelines
By Nala Rogers 19 November 2015
http://news.sciencemag.org/biology/2015/11/why-you-shouldn-t-always-listen-dietary-guidelines
アイスクリームサンデーは確かにあなたの血糖を上げるだろう。でもトマト料理は?トーストは?新しい研究によると人により驚くほど反応が異なる。この知見はみんなに同じ助言をすることについて再考を促すかもしれない。
イスラエルのWeizmann科学研究所のコンピュータ生物学者Eran Segalらが800人のデータを集めて調査した。また26人にカスタマイズした食事を食べてもらって血糖を調べた。
(食後血糖の反応なら相当違って当然。むしろ食品の、血糖が上がりにくいなどの効果の宣伝をみんなに一様に効果があると鵜呑みにするほうがおかしい。)

  • 更新:遺伝子組み換えサケがFDAに認可された

ScienceInsider
Updated: Genetically modified salmon wins FDA approval
By Kelly Servick 19 November 2015
http://news.sciencemag.org/policy/2015/11/genetically-modified-salmon-wins-fda-approval
FDAに認可を求めて約20年、AquaBounty Technologies社の早く成長するサケが認可された。しかしこれで議論が終わるわけではないだろう。
Target, Trader Joe’s, および Whole Foodsは既にAquAdvantageサーモンは売らないだろうと言っている。

  • サケが米国で食品として初めて認可された遺伝子組換え動物

Natureニュース
Salmon is first transgenic animal to win US approval for food
Heidi Ledford 19 November 2015
http://www.nature.com/news/salmon-is-first-transgenic-animal-to-win-us-approval-for-food-1.18838
待ちに待った決定で初めて米国の食卓に遺伝子組換え動物が認められた
通常3年かかる成長が18ヶ月のAquAdvantageサーモン
これだけ時間がかかったことについて政治的干渉が噂されていたがFDAのCVMの上級政策アナリストLaura Epsteinは、初めてのことだったので慎重にすすめた結果、といっている

  • 卵の容器のラベルの読み解き方

動物愛護協会
How to Decipher Egg Carton Labels
http://www.humanesociety.org/issues/confinement_farm/facts/guide_egg_labels.html
「ケージに入れていない」「放し飼い」などのよく見られる用語の、動物の福祉にとって意味することと意味しないこと
卵に「ナチュラル」「放し飼い」「有機認証」などたくさんのラベルがある。その意味は?
鶏が動き回れるか、戸外に出られるか、強制換羽などを表で提示。
(雄はふ化後すぐ殺される、とかも動物愛護的には嬉しくないらしい。肉用とは品種が違って飼料効率が悪いので。)

  • 健康のためにハチミツ?

Honey for Your Health?
November 20, 2015
http://www.berkeleywellness.com/self-care/home-remedies/lists/honey-for-your-health/slideid_2622
ハチミツは何世紀にも渡って自然療法に使われてきた。古代の人は傷口を覆ったり消化管の病気の治療から死体の防腐処置まで何にでも使った。抗菌作用があることが知られているがハチミツの主成分は糖と水である。同時に約200の化合物を含む。ハチミツは薬箱に入れるべきか?ここに科学はなんと言っているかを示そう。
1. 傷のケア
傷用のハチミツはあるが一部のみ。
2.アレルギーの緩和
残念ながらハチミツを食べて花粉症が緩和することはない
3.ふけ治療
多分ノー
4.咳を鎮める
子どもの寝る前の咳を鎮めるのに有効という研究がある。1才以下のこどもに与えてはならない
5.酒さの治療
期待できるかもしれないという小規模研究が一つある
6.記憶力強化
小規模で質の悪い研究で閉経後女性の短期記憶改善が示唆されている。長期記憶には影響はない
7.生と加工ハチミツ
USDAに生ハチミツの定義はないが業界団体には定義がある。加熱または濾過していないものである。生の方が良いという根拠はない
8.明るい色と濃い色
濃い色のほうが健康的ということはない
9.ハチミツの結晶
結晶ができても悪くなったわけではない。砂糖が析出しているだで温めると溶ける

ScienceInsider
Animal rights group targets NIH director’s home
By David Grimm 18 November 2015
http://news.sciencemag.org/people-events/2015/11/animal-rights-group-targets-nih-director-s-home
先月PETAがNIH所長のFrancis CollinsとStephen Suomiの自宅住所と電話番号を書いて近所の人に彼らは動物を虐待しているからと電話したり自宅を訪問したりするよう強く求める手紙を数百通送っていた。
PETAは2014年からサルの行動を研究しているStephen Suomiを標的にしている。
PETAのこれまでの活動が一般からの共感を得られなかったためさらに過激になっている。

  • 中国が遺伝子をカスタマイズした動物を強力に推進

China's bold push into genetically customized animals
Christina Larson 18 November 2015
http://www.nature.com/news/china-s-bold-push-into-genetically-customized-animals-1.18826
科学者が倫理上の懸念を表明しているが、新しい種類の犬、山羊、サル、ブタが次々と作られている
Scientific Americanからの記事
陝西カシミア山羊技術研究センターが筋肉が大きくて毛の長い新しい種類の山羊を作った。肉と羊毛による収入を増やすためである。何年も研究してきてめぼしい成果がなかったものがCRISPR-Cas9による遺伝子編集技術で大きく前進した。これは中国の研究者によるたくさんの動物の遺伝子編集の成果の一例に過ぎず、数百とまでは言わないが数十の研究所が熱心にCRISPRによる改変を行っている。そのため倫理的懸念の声も上がっている。
(ヒト胚の編集まで手を出してるしね。しかしクローン動物に文句言ってる人たちが反応する時間を与えない感じ。GMイネが拡散した後でゴールデンライスを目の敵にしたように、またあとで明後日の方向に騒ぎにするんだろうか。)

  • いかにして統計がBPA論争を解決できるか

How Statistics Can Solve the BPA Controversy
by statsorg | Nov 18, 2015
http://www.stats.org/how-statistics-can-solve-the-bpa-controversy/
編集者の注記
ビスフェノールAがヒトにとって危険なのかどうかを巡る論争は17年目を迎えた。米国や世界中の政府機関はこの研究に数億ドルを投じてきたが結論には大きな異議がある。リスクは現実的で定量できるのか、あるいは有害だという主張は再現できないのか?米国ではFDAが、NTPとEPAと一緒に行った研究結果を引用して現在の暴露量ではリスクはないと結論している。しかしながらニュースメディアでは主にNIEHSがお金を出した研究をもとに、BPAがいろいろな健康への悪影響があるという話が流れ続けている。この議論はしばしば内分泌撹乱という概念を巡る科学の専門分野と世界観の衝突という枠組みで語られる−内分泌学と毒性学−。しかし同時により広範な科学における再現性の危機という懸念もある。ここに統計学統計学者の入る余地がある。
STATSはGeorge Mason大学心理学部の統計学者Patrick McKnightに、BPAを巡る議論の基本的メカニズムの問題の一つ−つまりある化合物が極微量では有害影響があるが高濃度では影響がない−を探るようお願いした。彼はBPAの研究には関わっていない。彼の関心は統計学的見地であり、信頼できる結論を出せるように研究がデザインされたのかどうかである。彼の結論は政府の資金で行われた研究のやりかたに重要な疑問を提示し、ジャーナリストに科学的主張の背景を理解し研究デザインやデータや解釈について質問する必要性を示す。
以下本文
低用量影響と一相性ではない用量反応(NMDR)
典型的な用量反応曲線は一般的に用量が多いほど反応は大きい。例としてアルコール。
他にもいくつかの用量反応関係が想定されているがBPAで問題になっているのは低用量影響NMDRである。
低用量での影響が簡単に検出できるのなら問題ではない。しかし文献レビューによると「低用量」とされる用量があまりにもばらばらでその多くは「低」ですらない。さらに多くの研究がごく僅かな影響を検出するだけのパワーがない(サンプルが少なく用いた統計が不適切)。一般的に用量反応曲線に使われる回帰モデルではマウスやヒトで最低でも各群50の観察が必要である。もし影響が明確ではなく小さければその数は劇的に増える。適切なサンプルサイズは200以上になるがそのような研究はほとんどない。
そして再現性がない。研究者が信じている結果を出す傾向があるので異なる実験室での再現性の確認が重要になるがそのような共同作業は行われていない。結論としてそもそも実験デザインが低用量の影響を検出しようとしていない。

Anatomy of a Statistical Meltdown
by Trevor Butterworth | Nov 18, 2015
http://www.stats.org/anatomy-of-a-statistical-meltdown/
ABCニュースが「プラスチックに含まれる化合物が少女の攻撃性に関連」という。ロイター健康ニュースが「シンシナティ地域の子どもたちでの新しい研究で、生まれる前にビスフェノールAに暴露された量が多いと行動上の問題が多く不安で多動が多い」という。Time’s Healthlandは「この結果は母乳や母親の教育レベルのような要因を調整したあとでも強い」と言う。ワシントンポストは「NIEHSのLinda Birnbaum所長はこの研究のサンプルサイズは適切でこの結果は動物での同様の影響を支持すると述べている」と言う。
2011年のこの研究について報道された、たった一つの批判は化学業界からのもので、経済的利益と関連があるため信頼性がないとされた。
しかしそれでもこの研究はFDAの見解を変えなかった。何故だろう?答えは政治でも企業の影響でもない。研究デザインである。
STATSは統計学者Patrick McKnightにこの研究のデザインとデータを見てもらった。彼の見解は以下である
・最初のサンプルは468だったが解析対象にしたのは237あるいは239で、何故半分が失われたのかわからない。このこと自体はよくある。
・真の問題はこのデザインが主目的を達成できないということである。著者はBPAに暴露された群を「症例」として、暴露がない群を「対照」として症例−対照研究をしようとした、と説明している。ところが非暴露群は集められなかった。結果として彼らの結論を支持する根拠はない。どんな素晴らしい統計学でもデザインの悪い研究をデザインの良い研究に変えることはできない。
・もう一つの解析の問題は図を見れば明らかである。図からは非常に大きな影響をもつ数例が明確である。彼らが用いた方法は極端な外れ値に過剰に反応する方法である。図全体を見れば「影響はない」。
BPAが少女に悪影響だが少年には利益がある。これをもとに「BPAは男の子に良くて女の子に悪い」とメディアが絶叫する?何故これは言わないのか?
・観察された差は測定の標準誤差より小さい。つまり影響は測定の場合に普通に見られる誤差の範囲内である
最も問題なのは何故ジャーナリスト達はこのような問題があることを見落としたのか、あるいはNIEHSの所長すらこの研究が「しっかりしたものだ」と言ったのか、である。より広範に統計学者と科学者とジャーナリストが協力すべきである。

  • アデレードの遊び場で発がん物質が検出されて健康への恐怖をおこす

Carcinogenic chemical detected in Adelaide playground sparks health fears
November 20, 2015
http://www.9news.com.au/health/2015/11/20/14/09/carcinogenic-chemical-detected-in-adelaide-playground-sparks-health-fears
市内の遊び場の土壌からベンゼンガイドライン基準を超えて検出されたため、立ち入り禁止になった。他の11の遊び場の検査を行う。アデレード市議会インフラ管理担当のPhil BurtonはABCニュースに「現時点では公衆への許容できないリスクとはならない」と語った。

  • 南オーストラリアののウマの死亡は雑草が原因かも

Weed may have killed SA horses
November 20, 2015
http://www.theaustralian.com.au/news/latest-news/weed-may-have-killed-sa-horses/story-fn3dxiwe-1227616750992
昨冬、14頭のウマが発汗、早い呼吸、筋肉の痙攣で倒れた。そのうち8頭が死亡しアデレード大学の研究者はmarshmallow weedを疑っている。

  • FDAが認めたGMOサーモンを阻止するための法廷闘争とPR合戦が始まった

Legal, PR battles commence to block FDA approved GMO salmon from dinner plate
Jon Entine | November 19, 2015 | Genetic Literacy Project
http://www.geneticliteracyproject.org/2015/11/19/legal-pr-battles-commence-block-fda-approved-gmo-salmon-dinner-plate/
FDAが初めて認めたGEサケは、反GM団体が阻止に成功しなければ2年のうちに食卓に届くだろう。
Center for Food SafetyがこのFDAの決定を訴えるための反GM連合の設立を直ちに発表した。
(フランケンフィッシュとかサケの顔アップとか.もともとサケの顔って怖いよね)

  • 最後におまけ

ハム業界の逆襲でうやむやに…加工肉発がん性問題の真相
2015年11月18日 窪田順生 [ノンフィクションライター]
http://diamond.jp/articles/print/81849
あまりにも与太記事なので
この人、IARCの発表読んでない。
Lancet Oncologyには「加工や調理の過程で生成される化学物質」を含む肉や加工肉に含まれる発がん性の原因と疑われる因子はちゃんと名指しされてる。
つまりN-ニトロソ化合物、ヘム鉄、ヘテロ環状芳香族アミン、多環芳香族炭化水素、脂質過酸化物。ほとんどが肉と加工肉で共通なので、添加物関係ない。燻製等では増えるので加工肉の方が含量が多いと想定されているだけ。
肉を多く食べるヒトでは野菜や果物の摂取量も少なくなりがちなので疫学データには交絡があるのだけれど。ちなみに亜硝酸塩を生じる原因となりうる硝酸は野菜をたくさん食べるヒトの方が多く摂っている。「鱈ちり効果」って知ってる?魚と白菜で発がん性のニトロソアミンができるって昔話題になった。