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その他

  • 特集

科学的根拠を政策に反映させることについての特集
Science 10 February 2017  Vol 355, Issue 6325

A matter of fact
David Malakoff
ポスト事実の時代には根拠に基づいた政策決定は脅かされる?
政策は最良の根拠に基づくべきだと信じている人にとっては心配の多い時代である。評論家は今やポスト事実の時代だという。口コミで広がるフェイクニュースオルタナティブファクトを拡散する。気候変動や子どもの予防接種のような問題については多くの科学者が、苦労してやっと手に入れた研究知見が政治家や人々によって簡単に捨てられ、彼らの誠実さが疑われていると心配している。一部の人はインターネットであるいは街頭で根拠を支持する。しかし根拠はどう政策を形作るべきなのだろう?そして何故時々失敗するのだろう?
この特集では、根拠はそれでも政府にとって重要であることを示す。特に米国や欧州のような、法律によりしばしば技術の専門家からのインプットを要求するしっかりした官僚制のもとでは。多くの政治家も問題解決のために問題をより良く理解したいと望む。だから意志決定のためのデータの需要は大きい。だからといって政策への道が一直線だというわけではなく、根拠があれば結果がでるというわけでもない。

  • 政策を形作りたい科学者がやるべきこととやるべきでないこと

Do's and don'ts for scientists who want to shape policy
By Erik StokstadFeb. 9, 2017 ,
http://www.sciencemag.org/news/2017/02/dos-and-donts-scientists-who-want-shape-policy
英国Stirling大学の政治科学者Paul Cairneyは、政策をガイドするための事実を探り研究資金を得ようとする人たちに伝えたいことがある。昨年「根拠に基づいた政策決定の政治学The Politics of Evidence-Based Policy Making.」という本を書いている。Cairneyへのインタビュー。
孤立感に注意
Donald Trump大統領の選出のようなことがあると「科学は敗北し感情が勝った」と思うだろうが、多くの場合政策は専門家が作っている。科学者が議論できる場所はたくさんある。そして分野によっては科学的考え方が主流になっている。
根拠が自ずから語る、とは考えないこと
みんなが気がつくことを期待しないこと。政治家は常に書類に埋もれている。政治家が「全ての情報を検討する時間がない、どうやって決めよう?」という状況で科学者が役割を果たせる
政策決定が順序よく行われるという考えを捨てよ
そんなに単純ではないが混乱しているからといって関与を止めないように
あなたが論文を発表したら彼らが聞きに来るとは思うな
論文を出すことでは政策決定を導けない。そうではなく、長く続くネットワークを作り、適切な時期を見つけよう。例えば重油の流出や医学的ミスを予防したいなら、準備を整えて次の災害がニュースになった時にあなたの知見を提示しよう。
メンターを育て宿題をしよう
政治的プロセスに力をもつには膨大な時間がかかる。だから既に政治家に信頼されている専門家を捜そう。信頼できる情報を提供してくれて役にたち、過剰な要求はせず、助言が取り入れられなくてもおこったりしないような人を。
あなたの戦いを選ぶ
忍耐、ひたすら忍耐

  • BPAの安全性戦争で、根拠を巡る戦い

In BPA safety war, a battle over evidence
By Warren CornwallFeb. 9, 2017 ,
http://www.sciencemag.org/news/2017/02/bpa-safety-war-battle-over-evidence
1930年代に、英国の一人の生化学者が今日の化学物質安全性についての荒れ狂う議論の中心として残る奇妙な観察をした。彼はBPAが弱いエストロゲン類似作用をもつことに気がついた。その後数十年、BPAはエポキシ樹脂やポリカーボネートプラスチックの成分として毎年たくさんの製品に何百万トンも使われるようになった。しかし1990年代にスタンフォード大学の研究者らがプラスチックから極微量溶出することを認識した。研究者らや一般公衆は、既にホルモン様化合物が内分泌系に干渉する可能性について心配していて、この極微量のBPAが害を与えるかどうか疑った。
これまでの検査でBPAアメリカ人の90%以上に発見されている。しかしこのリスクについてはまだ議論されている。理由の一つは研究結果が矛盾するあるいは決定的ではないからで、その理由の一部は内分泌への影響が小さすぎて突き止められないからだろう。もう一つの理由は大学の研究者と規制機関の間に、政府の化学物質監視のためにどのような研究がベストなのかについて深い亀裂がある。
2014年に米国FDABPAの健康影響について161の新しい研究を吟味した。その目的はこの化合物の安全性について科学が判断できるかどうか、規制者に明確な道筋を示すかどうかを見るためであった。集めた根拠には大量のピアレビューのある雑誌に発表された論文が含まれ、それらの多くは微量のBPAが人体に影響する可能性を示唆する。しかしFDAの科学者はそれらの研究のほとんどが政策の根拠としては利用価値が無いと判断した。BPAの安全量を決めるのに役立つ論文は4つで、いずれも微量では影響は見られなかった。
ここで明らかになった分断はBPAのみならず難燃剤から農薬まで、化学物質の規制を巡る戦いに拡大している。一方には多くの大学が行っている研究があり、もう一方にはいわゆるガイドラインに従った、GLPという規則を用いた研究がある。GLPは1970年代から80年代にできたものでほとんどの企業や政府の実験室での化学物質の研究を形作る。このアプローチは、化学物質安全性試験を改善するためのデータの収集、記録の保持、認められる試験の種類などの基準を含む。BPAのレビューに合格した4つの研究のうち2つがガイドライン研究である。しかし批判者はこの規則や基準が最も進歩した科学を使い、全ての根拠を推し量る障害となるという。
マサチューセッツ大学の内分泌学者でBPA甲状腺への影響を調べているTom Zoellerは「世界の科学的装置は人類の歴史上かつてないほど高いが、環境化学物質から公衆衛生を守ることに関してはその多くが無視されている」という。
今日一部の科学者や規制機関はこの分断を橋渡しすることに苦闘している。そのうち最も野心的なものがNIEHSによる3000万ドルイニシアチブである。この計画では大学の研究者と政府の科学者が方法論をつきあわせてBPAのリスクをより明らかにして新しい化学物質安全性評価モデルを作ろうとしている。しかしこのプロジェクトのぶつかり合いがそれが如何に困難なことかを強調する。
スキャンダルが起源
(GLPが導入されたわけ−データ捏造。大学の研究は信用できない。略)
科学をスクリーニングする
FDAの微量のBPAを巡る科学の取り扱いはこれら二つの種類の研究の深い亀裂を描き出す。2008年にFDAは人々が通常食品から飲み込む量のBPAは健康リスクとはならないと宣言した。主にGLPガイドラインに則って行われた研究に基づく。どちらの研究もプラスチック業界がお金を出している。それ以降FDAは何回か新しい研究をレビューしている。現在は脳や行動、前立腺への影響について幾分かの懸念があるとしているが、全体的な評価は変わっていない。そして多くの大学の研究を欠陥があり規制の根拠としては使えないとしている。
(略)
分断の橋渡しをする
2012年に始まった12の大学の研究室とFDAの国立毒性学研究センターが参加したCLARITY-BPA研究では、3800匹のラットをGLPプロトコールに従って育ててBPA暴露させた。このラットの組織検体をBPA暴露についてはわからないようにして大学の実験室で解析する。そのデータをFDAに戻してデコーディングする。
現在そのデータが出つつある。何人かの大学の科学者が低濃度のBPAの影響を観察できたといっている。Zoellerは「CLARITYのデザインは非常に重要だ」という。しかし彼らは現実は厳しかったという。この計画全体で文化の衝突があり摩擦が大きかった。
(略)
変化の兆し
FDAの外で、一部の人たちは最新の研究をレギュラトリーサイエンスに上手に組み込む方法のモデルとして臨床医学の世界を見ている。系統的レビューと呼ばれる方法で、一部の政府機関はこの戦略を採用し始めている。EPAは最近改訂されたTSCAのもとで化学物質を吟味するのに系統的レビューを用いるよう環境団体と企業団体の両方から要請されている。

  • 英国のがん慈善団体が4つの大きな研究課題に7100万ポンドを与える

U.K. cancer charity awards £71 million for four major research challenges
By Jocelyn KaiserFeb. 9, 2017
http://www.sciencemag.org/news/2017/02/uk-cancer-charity-awards-71-million-four-major-research-challenges
ロンドンのがん慈善団体Cancer Research UKががん研究の最も困難な課題に取り組む4つのチームに7100万ポンドを与えることを発表した。この5年間のGrand Challenge Awardsは腫瘍のマッピング乳がんがいつ発生するのか予想する、がんの環境要因を特定するといった仕事に与えられる。この公募は2年以上前から、世界中の専門家から大きな課題が何かについて意見を集めることから始めている。57の研究提案を集め、それを最終選考で9つに絞り、今回4つが選ばれた。