食品安全情報blog過去記事

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ゲノム編集のリスクの認識:保留と情報への大きな需要

Risk perception of genome editing: reservations and a great demand for information
44/2017, 24.10.2017
http://www.bfr.bund.de/en/press_information/2017/44/risk_perception_of_genome_editing__reservations_and_a_great_demand_for_information-202581.html
今まで数十年間にわたり、ヒトは新種や新しい系統を生産するために植物や動物のゲノム情報を改変してきた。最近の分子生物学的方法のいくつかは、『ゲノム編集』と総称され、遺伝物質に目的の介入を行うことができる。例えば、CRISPR/Cas9法は、農業と医薬品の分野で使用することができ、特に成功が有望視されている。こうした新しい方法に対するドイツ人の考え方は、現在まで科学的にほとんど検討されていない。適切なリスクコミュニケーションにおいては一般市民の考え方や認知度についての知識を持つことが根本的に重要であるため、BfRは、(ドイツにおける)調査の範囲内で、テーマを決めてグループインタビューを行った。BfRの主席教授Andreas Hensel博士は次のように述べている。「回答者はゲノム編集をほとんど認知しておらず、これらの技術についてほとんど知識がないが、彼らの大多数は食品分野でこれらの方法が使用されることをを拒んでいる。このことは、一般市民をリスク評価の最新の知見について知らされた状態に保ち続けることがいかに重要かを示している。」
遺伝情報の修飾は生命の一部である。従来型の植物や動物の育種では、ヒトは自然突然変異率を高める方法を使用し、突然変異体から有益な特性を持つ新種や新しい系統を選出できるようにしてきた。ゲノム編集の総称で知られるようになった特定のより新しい分子生物学的方法も、このことに関しては従来型の育種と異なることはない。決定的な違いの一つは、ゲノム編集法では、かなり特異的な改変を対象生物のゲノムに導入できることである。CRISPR/Cas9法は、ゲノムに特殊な修飾を施すことができ、目下のところ特に成功が有望視されている。この方法は様々な新しい用途を切り開く。例えば、病気抵抗性植物変異株の開発など、農業における利用が、医薬分野での利用と同様に議論されている。ただし立法者は、法的観点からどのようにゲノム編集が分類されるべきかをまだ決定していない。
BfRは、科学的見地に立ってゲノム編集の問題を取り扱っている。またBfRは、リスクコミュニケーションに関する助言と方策を準備しているが、この問題に対する消費者の考え方を知ることがここで必要になっている。テーマを決めたグループディスカッション、いわゆるフォーカス・グループ・インタビューは、一般市民の具体的な視点、考え方、および潜在的な懸念を洞察するのに役立つ。
こうした背景をもとに、BfRは、男女全39名のフォーカス・グループを作り、インタビューを実施した。インタビューによって、消費者が現在ゲノム編集について知っていることやどのような要因が消費者のリスク-利益の慎重な見極めを支配するかについての洞察が得られた。また、参加者が従来型の遺伝子工学に関連してゲノム編集をどのように分類するかや、どのような情報や規則を消費者が望んでいるかを見極めることができた。
重要な知見は、まだ定められていない法的分類に関わりなく、インタビューの参加者は、遺伝子工学の一形態としてゲノム編集法を認識しており、そのためにゲノム編集法についても遺伝子工学に対するのと同様の拒絶感を抱いている、ということである。食品分野では、参加者の意見では利益より不利益の方が上回っており、そのためゲノム編集の利用は大多数に拒まれている。参加者は、ゲノム編集を利用して生産された食品についての表示義務を明らかに求めている。彼らは、所轄当局による厳しい規則も期待している。こうした状況は、医療分野では少し異なり、必要性と治療上の利益が明らかなため、ゲノム編集の利用が多くに受け入れられている。回答者の年齢も、ゲノム編集の評価に影響している。若者は年配者より肯定的で、新しい方法を進んで受け入れている。
参加者がゲノム編集法についてあまり知識がないことも明らかになった。だが同時に彼らは、それらの方法についての公的な説明を理解し、専門的な公開講演を聴けるようになろうとしている。これからのリスクコミュニケーション戦略では、こうした消費者の情報への需要に応えることが肝要である。
この調査事業の報告は、BfR-Wissenschaft series(BfR科学シリーズ)のVolume 04/2017に、"Durchführung von Fokusgruppen zur Wahrnehmung des Genome Editings (CRISPR/Cas9)"(ゲノム編集に対する認識についてのフォーカスグループ調査)の表題で収載されている。印刷版は、5ユーロでpublications@bfr.bund.deから申し込める。 別の選択肢として、無料でこの報告書をダウンロードし、印刷することができる。BfRのホームページに行き、メニュの”Publications”から”BfR-Wissenschaft”をたどると見つけることができる。そこではBfR-Wissenschaft seriesに収載された他の全ての公表物の概要も見つけることができる。