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亜硝酸イソブチル、β-ピコリン、およびいくつかのアクリル酸エステルの発がん性

Carcinogenicity of isobutyl nitrite, β-picoline, and some acrylates
Published: 28 June 201
https://www.thelancet.com/journals/lanonc/article/PIIS1470-2045(18)30491-1/fulltext
https://doi.org/10.1016/S1470-2045(18)30491-1
2018年6月14日のIARC専門家会議において、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、トリアクリル酸トリメチロールプロパン(TMPTA)、亜硝酸イソブチル、およびβ-ピコリンの発がん性評価が確定された。
アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、工業用グレードのTMPTAおよび亜硝酸イソブチルは、Group 2Bの「ヒトに対する発がん性が疑われる」に分類された。これは、実験動物において発がん性の十分な根拠が示されていること、およびヒトについてはデータもしくは十分な根拠が無いことに基づいている。一方、β-ピコリンは、Group 3の「ヒトに対する発がん性が分類できない」に分類された。これは実験動物における発がん性の根拠が限定的であり、ヒトにおけるデータが無いことに基づいている。
アクリル酸メチルは、げっ歯類においては容易に吸収され、体内に広く分布し、カルボキシルエステラーゼにより代謝されてアクリル酸メタノール加水分解されたのち、呼気中にCO2としてあるいは尿中にメルカプツール酸抱合体として排出される。また、アクリル酸メチルは、ラットを用いた1件の吸入試験において、軟部組織肉腫、白血病、リンパ腫、リンパ肉腫の発生率(合計)を雄で増加させ、下垂体選手の発生率を雌で増加させた。さらに、別の吸入試験では、アクリル酸メチルにより、雌雄両方で鼻腔の扁平上皮がんが引き起こされ、副腎の褐色細胞腫(良性と悪性の合計)が雌で増加した。
アクリル酸エチルは、ラットにおいては速やかに吸収され、体内に広く分布し、ほとんどがカルボキシルエステラーゼによって代謝されてアクリル酸エタノールになり、その後CO2となる。グルタチオンやタンパク質と共有結合することが示されている。アクリル酸エチルをマウスやラットに強制経口投与した試験では、前胃の扁平上皮乳頭腫および肉腫の発生率が上昇した。長期投与の場合に前胃部のみに腫瘍が生じており、作用機序もDNAとの反応に依らないため、ヒトとの関連性は低いと考えられるが、アクリル酸エチルに吸入暴露した場合には、雄マウスで甲状腺濾胞細胞腺腫の発生率上昇、雄ラットで甲状腺濾胞細胞の腺腫ないしは肉腫(合計)の発生率上昇が認められている。さらに、アクリル酸エチルは、げっ歯類を用いたin vivoおよびin vitroでの遺伝毒性アッセイのいくつかで陽性を示している。ただし、この所見は、再現性が低く一貫していないため、不明確である。アクリル酸エチルは、慢性的な炎症と細胞増殖性の変化、すなわち細胞死または栄養供給増強を誘発し、ラットやマウスに2年間強制経口投与した場合には、前胃に過形成や炎症を引き起こしている。
アクリル酸2-エチルヘキシルは、ラットにおいては速やかに吸収され、体内に広く分布し、カルボキシルエステラーゼが触媒する代謝、およびグルタチオン抱合を経て、主にCO2として呼気に、メルカプツール酸抱合体として尿中に排泄される。アクリル酸2-エチルヘキシルは、雄マウスへの経皮投与試験において、扁平上皮乳頭腫、扁平上皮乳頭腫とがん(合計)、角化扁平上皮がん、および悪性黒色腫と線維肉腫の発生率を上昇させた。全般的に作用機序に関わるデータはわずかで、入手できた試験では遺伝毒性について陰性という結果が示されている。
工業用グレードのTMPTAは、げっ歯類に経皮投与試験において、肝細胞がん、肝芽腫、肝細胞胆管がん、子宮間質ポリープ、子宮間質のポリープないしは肉腫(合計)の発生率を雌マウスで、精巣鞘膜の悪性中皮腫の発生率を雄ラットで上昇させた。またTMPTAは、トランスジェニックマウスを用いた1件の経皮投与試験において、雌雄に皮膚扁平上皮乳頭腫を、雌に前胃扁平上皮乳頭腫を引き起こした。ラットでは尿中排泄が主流で呼気へのCO2排泄がそれに続くが、マウスではこれらの両経路で同等の排泄が行われる。慢性経皮暴露を受けたげっ歯類では、複数の種類の皮膚細胞で過形成が認められた。他には作用機序に関するデータはほとんど得られていない。
亜硝酸イソブチルは、げっ歯類においては速やかに代謝され、亜硝酸塩とイソブチルアルコールになる。暴露されたウサギの呼気からは、一酸化窒素が検出されている。遺伝毒性試験の結果は全般的に陽性であるが、入手できた試験はわずかである。マウスでは複数の試験で、抗原特異的抗体産生の用量依存的な抑制が認められている。げっ歯類の吸入試験では、細気管支肺胞の腺腫およびがんの発生率増加が雄ラットで、細気管支肺胞の腺腫ないしはがん(合計)の発生率増加が雌雄のマウスおよび雌ラットで、甲状腺濾胞細胞の腺腫ないしはがん(合計)の発生率増加が雄マウスで認められた。
β-ピコリンは、げっ歯類において、速やかに吸収され、チトクロムP450媒介性の酸化により代謝されるが、発がんメカニズムに関するデータは乏しい。ラットやマウスに飲水投与した試験では、雌マウスにおいて肝細胞がん、肝細胞がんないしは肝芽腫(合計)、および細気管支肺胞の腺腫ないしはがん(合計)の発生率増加が認められ、雄マウスと雌ラットにおいて細気管支肺胞の腺腫の発生率増加が認められた。