食品安全情報blog過去記事

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子供におけるチョーク様歯牙(大臼歯から門歯にかけての低石灰化: MIH)とビスフェノールAの摂取との関連は無さそうである

Connection between “chalky teeth” in children (molar-incisor hypomineralisation, MIH) and the uptake of Bisphenol A not likely
BfR Communication No 025/2018 of 3 August 2018
https://www.bfr.bund.de/cm/349/connection-between-chalky-teeth-in-children-and-the-uptake-of-bisphenol-a-not-likely.pdf
医師会は、子供において歯の石灰化障害が増加していると報告している。いわゆる「チョーク様歯牙」では、歯が褪色し、また痛みに非常に敏感となる場合がある。熱、冷たさ、ブラッシングに対しても敏感に反応する傾向がある。症状や外表への影響の重症度に応じて、チョーク様歯牙の病態は3段階に分類される。チョーク様歯牙の症状は、1978年に最初に報告され、MIH(大臼歯から門歯にかけての低石灰化: molar-incisor hypomineralisation)という用語は2001年に紹介された。この病態は、歯のエナメル質が発達する部位に輪郭を持った欠損が生じる結果であり、少なくとも一本の永久歯の奥歯(大臼歯)が影響を受け、特定の状況では門歯にも生じる。最近のメディアの報道では、このような歯の障害はビスフェノールA (BPA)の摂取によるものだと主張されている。
様々な製品に使われる中で、BPAは食品接触材料にも存在する場合がある。哺乳瓶への使用は2011年に禁止されている。MIHとBPA暴露との関連性についての報道は、Jedeon et al. (2013)の試験に基づいている。この試験では、ラットにおいてBPAへの暴露と歯のエナメル質の石灰化不全との関係が検討されている。その後に出された論文では、石灰化障害は主に雄で生じ(最高で71%)、雌では低頻度であった(最高で31%)ことが報告されている(Jedeon et al., 2016a; Jedeon et al., 2014)。また、ホルモン制御性の選択的シグナル経路が分子標的に影響する有力な機序として確認されている(Houari et al., 2016)。
BfRは、当該試験(Jedeon et al., 2013)の内容を評価し、目下のところ子供におけるMIHの発生とBPAの摂取とを関連付ける科学的根拠は無いと結論付けている。オランダの最新データによると、子供のBPAへの経口暴露は、多い群で0.14 µg/kg体重/日である。この暴露量は、Jedeon et al. (2013)での用量の35分の1である。ヒトにおけるBPAの様々な毒物動態学的挙動を考え合わせると、BPAとMIHの直接的関係は、実生活で予想される暴露条件に基づくとありそうにない。
Jedeon et al.の試験には様々な難点があり、ヒトに置き換えるには制約があることに留意が必要である。Jedeon et al. (2013)の試験は専ら雄ラットで実施されており、BPAの用量も1段階だけであった。その後の試験では、それぞれの所見はかなり弱まり、雌では影響は認められなかった(Jedeon et al., 2014)。生後100日齢で発達への影響が認められなかったことも十分に関連付けて報じられていないと思われる。他のグループがラットやマウスで多世代試験を実施しており、これらのいくつかでは非常に高用量のBPAが用いられながら歯の障害は認められていないのだが、こうしたことも考慮に入れられていない。
MIHの欧州における発生率は3〜22%で、世界的な発生率は2〜40%である(Elhennawy et al., 2017)。この発生の要因には様々なことが考えられる。例えば、疫学的調査では、妊娠の最後の四半期に母親が病気であったこと、出産期の合併症、生後1年以内に頻発した病気などとの関係が指摘されている(おそらく非常に高い熱を出したこととも関連している)。他の理由として、血中ビタミンD濃度が低いことや抗生物質のアモキシシリンを早期に投与されたことが取り上げられている。他の試験では、MIHとダイオキシンへの暴露増加とが関連している可能性が報告されている。例えば、イタリアのセーヴェゾでは、四塩素化ダイオキシン(TCDD)の血清濃度が高い5歳以下の子供で、以降MIHの発生率が上昇したことが示されている。
結局のところMIHは様々な要因で引き起こされると考えられ、他因子疾患とみなされるべきである(Schneider and Silva, 2018)。