食品安全情報blog過去記事

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その他

  • 乳製品摂取と心血管系疾患と脂肪を調べた研究への専門家の反応

SMC UK
expert reaction to study looking at dairy consumption, cardiovascular disease and death
September 12, 2018
http://www.sciencemediacentre.org/expert-reaction-to-study-looking-at-dairy-consumption-cardiovascular-disease-and-death/
The Lancetに発表された研究が低から中所得国での心血管系疾患と死亡率の関連を調べた
ケンブリッジ大学MRC疫学ユニットNita Forouhi教授
乳製品を食べると心血管系の健康に悪いという誤解が拡がっている。そしてこの研究はそれを再び宥める。食事ガイドラインでは、世界中どこでも、1日に2-4単位の乳製品摂取を薦めている。疑問の一つは全脂肪か低脂肪かであるがこの研究では答えが出ていない、なぜなら欧州と北米以外では低脂肪乳はあまり摂取されていないので。現時点では現在のガイドラインに従うべきである。
King’s College London栄養と食事名誉教授Tom Sanders教授
これは収入や遺伝的要因などが大きく異なる国々の大規模観察研究で、交絡が多い。これらの国での乳製品の摂取は著者らによると「ほどほど」である。参加者は比較的若く、そのため心血管系疾患の頻度が低いので結論を出すにはもっと長期のフォローアップが必要である。
著者らは乳製品の摂取量が少ない国は乳製品により心血管系疾患リスクが減るかもしれないと示唆しているがアジアやアフリカでは乳糖不耐の人が多いことを失念している。さらに乳製品の摂取量が非常に少ない日本ではCVDは低い。結論としてこの研究は知見から正当化できない食事助言をしている
UCL Great Ormond Street子ども健康研究所上級研究員James Doidge博士
全脂肪乳の適量摂取は健康に利益があることを示したのはこの研究が初めてではないが、規模は最大のもののひとつである。食事研究は収入やその他の健康に影響するライフスタイル要因によって交絡する。収入の多い人は健康的なライフスタイルで乳製品も多く食べるのでこの手の観察研究を複雑にする。研究者らは長々と統計学的調整をしているが、確認には介入研究が必要である。この研究は西洋世界が低脂肪乳を異常に好んでいることを明らかにした。これは飽和脂肪あるいは総脂肪を減らすようにという助言によるもので根拠に基づいたものではない。低脂肪と全脂肪に関する食事ガイドラインは更新が必要である。
英国心臓財団上級栄養士Victoria Taylor
この種の研究は関連しか示せない。
Reading大学食品栄養健康研究所Ian Givens教授
PURE試験は印象的で非常に独特である。避けられない欠点はある。それでも価値ある貢献をしている
King’s College London栄養科学上級講師Sarah Berry博士
乳製品が身体に悪いとみなされた理由の一つは単一の栄養素や単一のバイオマーカーで食品と健康を結びつけようとする伝統的還元主義者のせいであろう。乳製品に飽和脂肪が多いから不健康だ、というような。しかし乳製品には栄養やビタミンも含まれ、さらに我々は栄養素を食べるのではなく食品を食べるのである。
(いろいろ略)

  • BPA代用品はマウスでホルモン類似作用を示す−専門家の反応

NZ SMC
BPA replacements show hormone-mimicking issues in mice – Expert Reaction
14 September 2018
https://www.sciencemediacentre.co.nz/2018/09/14/bpa-replacements-show-hormone-mimicking-issues-in-mice-expert-reaction/
Current Biologyに発表された新しい研究によるとプラスチックのBPA代用品はBPAと同じような生殖の問題を実験室のマウスにおこす。SMCは専門家のコメントを集めた
Scion生体ポリマーと化合物チーム技術サービス部長Lou Sherman
この研究はBPA代用品についての懸念を強調する。重要なことは全てのプラスチックがこの代用品を含むわけではないことである。一般的にリサイクルコード1 (PET、ソフトドリンクのボトル)、2 (HDPE、ミルクボトル)、4 (LDPE、プラスチックバッグ)、5(ポリプロピレン)、6(ポリスチレン)はBPAやその代用品を含まない。またたとえBPAやその代用品を含むものであっても、食品に有害な量溶出したときのみリスクとなる。国際的に食品と接触する物質にはそのような溶出を調べることを要求している。
全体像をみるには、FSANZの最近の研究のように食品への溶出の調査が必要である。FSANZの調査ではフタル酸類を調べて推定摂取量はTDIより少なく、公衆衛生上の懸念とはならないとしている。
オークランド大学化学材料工学講師Alisyn Nedoma博士
どんなポリマーでもそれが構成分子に分解されれば毒性の可能性はあるが現実的には多くのポリマーは分解しない。この論文のプラスチックはその点で例外的である。
ワシントン州立大学のPatricia Huntの研究室では傷のあるマウスケージがその中にいるマウスに生物学的影響を与えたことを示す。そのプラスチックはポリスルホンというものである。破片になるなどの物理的分解はプラスチックの反応性の無さに影響しないが科学的分解は有害な可能性のある物質を溶出する可能性がある。ダメージのあるプラスチックから溶出する物質の危険性についてはケースバイケースで検討すべきである
オークランド大学グリーンケミカルサイエンスセンター長James Wright教授
ポリカーボネートのようなBPAポリマーではBPA化学結合していて簡単には放出されない。しかし熱や洗剤、電子レンジ、紫外線などでゆっくり分解しBPAを放出する可能性がある。添加物としてBPAを使用したプラスチックからはもっと簡単に溶出する。たくさんのBPA代用品が開発されてきたが安全性と毒性はBPAほど研究されていない。あるプラスチックが「BPAフリー」だというだけで毒性が少ないわけではない。最近の多数の研究では多くはBPAと同じ毒性がある可能性が示されている
SMC AUから
RMIT大学理学部Oliver Jones准教授
構造的に類似の化合物が同じような作用をもつのは驚くべきことではないだろう。そしてこの研究が初めてでもない。BPAは1960年代から存在し地球上で最もよく調べられた化合物の一つで何千もの論文が発表されている。しかしながらそれが通常人々が暴露されている量でに害があるということを証明した人はいない。むしろ速やかに代謝されて排出されることがわかっている。
BPAへの一般の人々の懸念がBPFやBPAF、BPE、BPSなどの一連のBPA代用品を生んだ。これららは化学的にBPAに類似しているがBPAほど徹底的に調べられてはいない。だから研究は歓迎する。この研究は興味深いが使った動物は少なく近交系である。マウスはヒトではない。この結果を根拠に心配する必要があるとは思わない
RMIT大学保健生命医学部Samantha Richardson准教授
この研究は人々が十分認識していない重要な問題を強調する。プラスチックにBPAを使わない会社は名前の違う非常に似た化合物を使っているということだ。それはほとんど同じ機能があり、つまり害も類似する。これらを構造類似体と呼ぶ。もし化学会社がBPA類似体を使って「BPAフリー」製品を作ることにしたら、事態は実際には悪化している可能性がある。
(もと論文に写真があるけれど飼育用ケージって何度もオートクレーブかけるのでぼろぼろになる。食用に使うものでここまでダメージがあったら使わないだろうというレベルで。もともと透明だったのに不透明になる
Replacement Bisphenols Adversely Affect Mouse Gametogenesis with Consequences for Subsequent Generations
https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(18)30861-3

  • 健康的食品が高級品になった、しかしこのライフスタイルの流行は費用に値するか?

Healthy food has gone high end, but is the lifestyle trend worth the cost?
By Dr. David S. Seres and Nancy E. Roman,— 09/10/18 11
http://thehill.com/opinion/healthcare/405865-healthy-food-has-gone-high-end-but-is-the-lifestyle-trend-worth-the-cost
現在はかつてないほど地元のスーパーで「スーパーフード」や地元産オーガニックの高級農産物をみかけるようになった。それを全部400ドルのお洒落なブレンダーに入れて飲むと何にでも効くらしい、あなたのクレジットカードの負債以外には。
高価な食品やスーパーフードが健康によいという考えは、昔からある普通の野菜や果物−それがGMだろうとオーガニックだろうと関係なく−を食事に取り入れることが健康にとって良い方法であるという事実を見えにくくする。
スーパーフードを買っているのはアッパーミドルクラスの都市住人であろう。収入の少ないアメリカ人の手には届かないほど値段が高く、入手も難しい。でもそれはお金に見合うのか?我々は高いお金を出さなくても健康的な食生活ができると確実に言える。
スーパーフードの金持ちへの販売の成功は高価なものが健康とイコールで、健康になるにはお金が必要だという印象を作りだした。残念ながら米国には普通の昔からある野菜すら十分に入手できない人たちがいる。
我々の社会がほんの一部の金持ちにしか買えない高価な稀少な高級食材の摂取を持て囃すようになればなるほど、健康的な食品は高すぎるという考えが強くなる。持てるものと待たざるものとの分断がますます大きくなる。
だから基本に注目しよう。食事法の流行が変わっても、野菜や果物を多く含む食事のメリットは決して変わらない。オーガニックではないリンゴは砂糖菓子よりはるかに良い。野菜果物売り場にあるものは何でもスーパーフードで、残りは装飾である。これらを全ての人が食べられるようにすることから始める必要がある。

  • 数千人の科学者が5日に1報論文を発表している

Thousands of scientists publish a paper every five days
Natureコメント
12 September 2018
John P. A. Ioannidis, Richard Klavans & Kevin W. Boyack
https://www.nature.com/articles/d41586-018-06185-8
2000年から2016年の間に、1年に72報以上、多くの人が信じがたいと思うだろう数、出版している著者をScopusで検索したところ9000人以上がみつかった。
これらの過剰に多作な著者が不適切なことをしているという根拠はない。多くは物理学で1000名にもなる大規模国際チームの仕事なので物理の著者を除外した。残ったもののうち909人は中国人あるいは韓国人だった。Scopusは中国人や韓国人の名前の区別が不完全なのでその後の解析からは除外した。そうして残ったのは265人だった。この多作な著者の数は2001年から2014年の間に約20倍になり、同期間に著者の総数が2.5倍になった。我々はこの265人にどうしてこれほど生産性が高いのかを尋ねるメールを出した。半分が医学と生命科学だった。日本の材料科学者でもと東北大学の学長Akihisa Inoueは12年間過剰に多作だった。彼はScopusにインデックスされているフルペーパーの2566に名前が載っていた。また7論文を二重投稿として取り下げている。265人中50人が米国、28人がドイツ、27人が日本。米国の割合は概ね論文の割合に比例し、日本とドイツが過剰に多い
過剰に多作な著者は特定の研究所に固まる傾向がある。例えばオランダエラスムス大学。主に30年にわたる疫学プロジェクトの関連論文である。他に大規模コホート研究に関連する。
(オーサーシップの定義を満たさない等、いろいろ。日本の医学、こんなところでも変な風習が指摘されてしまう)