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食品中の多環芳香族炭化水素 CONTAMパネルの意見

Polycyclic Aromatic Hydrocarbons in Food [1] - Scientific Opinion of the Panel on Contaminants in the Food Chain
04/08/2008
http://www.efsa.europa.eu/EFSA/efsa_locale-1178620753812_1211902034842.htm
多環芳香族炭化水素(PAHs)は2つ以上の融合芳香環からなる有機化合物の大きな分類である。主に有機物の不完全燃焼や熱分解、各種工業過程で生じる。
PAHは一般的に数百の化合物からなる複雑な混合物として生じる。ヒトの暴露経路は様々である。非喫煙者の主な暴露経路は食品を食べることで、喫煙者は喫煙が重要な暴露源である。食品は環境から、工場での加工過程で、及び家庭での調理で汚染される。
過去十年間、PAHはIPCSやSCF、JECFAにより評価された。SCFは15のPAH、ベンズ[a]アントラセン、ベンゾ [b]フルオランテン、ベンゾ[j] フルオランテン、ベンゾ[k] フルオランテン、ベンゾ[ghi]ペリレン、ベンゾ[a]ピレン、クリセン、シクロペンタ [cd]ピレン、ジベンズ [a,h]アントラセン、ジベンゾ[a,e]ピレン、ジベンゾ [a,h]ピレン、ジベンゾ [a,i]ピレン、ジベンゾ[a,l]ピレン、インデノ [1,2,3-cd]ピレン 及び 5-メチルクリセン、が変異原性/遺伝毒性が明白で同時にベンゾ[ghi]ペリレン以外は実験動物での発がん性も明確であると結論している。従ってSCFはこれらの物質はヒトに対する遺伝毒性発がん物質である可能性があるとみなして食事からの摂取による長期有害健康影響リスク評価を優先的に行うべきであるとした。SCFは食品中のPAHプロファイルとマウスにおける2つのコールタール混合物での発がん性試験を評価した結果に基づき、ベンゾ[a]ピレンを食品中発がん性PAHの存在や影響の指標として使用することを示唆した。
IPCSとSCFの評価を出発点として新しい研究を考慮し、JECFAが2005年にPAHの再評価を行った。全体として、JECFAは13のPAHが明確に遺伝毒性で発がん性であると結論した。ベンゾ[ghi]ペリレンとシクロペンタ [cd]ピレン以外についてはSCFと同じである。JECFAもベンゾ[a]ピレンを13の化合物の暴露や影響の指標として使用できると結論した。さらにJECFAはラットにコールタールの経口暴露により生じる肺腫瘍にベンゾ[c]フルオレンが寄与している可能性が示唆されていることから、今後の検査には食品中ベンゾ[c]フルオレンについても調べるよう推奨した。
ある種の食品中のPAH濃度についてさらなる調査が必要とされた(2005/108/EC)[ことから、EU15ヶ国から1万件以上の結果が提出された。EFSAはこれらのデータを2007年6月に評価し、2008年6月に更新し、検体の約50%からベンゾ[a]ピレンが検出されることを示した。しかしながら全検体の約30%においてはベンゾ[a]ピレンが検出されていなくても発がん性かつ遺伝毒性PAHが検出されている。個々のPAHについては、ベンゾ[a]ピレンが検出されていない検体においてはクリセンが最もよく見られるPAHで、最高濃度は242 microg/kgであった。これらの知見に基づき、欧州委員会は2002年のSCFの意見を再評価するよう要請した。
EFSAのCONTAMパネルはPAHの存在や毒性についての入手できるデータを評価した。優先順位リストに含めるべき新しい毒性学的データは見つからなかったので、SCFの同定した15のPAHとJECFAが示唆したベンゾ[c]フルオレンについて評価することにした。特にSCFとJECFAのリスク評価の基礎となった発がん性試験に用いられたコールタール混合物に含まれる8つの遺伝毒性発がん性PAHについて注意を払った。
CONTAMパネルは食品中のPAH混合物のリスクキャラクタリゼーションに毒性等価指数(TEF)アプローチが使えるかどうかを検討し、個々のPAHの経口による発がん性データがないことや作用機序が異なること、現在提案されているTEF値が発がん性の強さをうまく予測できないことなどからTEFアプローチは科学的に有効ではないと結論した。従ってCONTAMパネルはPAHのリスクキャラクタリゼーションは経口での発がん性データがあるベンゾ[a]ピレンと発がん性試験で使われたコールタール混合物に含まれるベンズ[a]アントラセン、ベンゾ [b]フルオランテン、ベンゾ[k] フルオランテン、ベンゾ[ghi]ペリレン、 クリセン、ジベンズ [a,h]アントラセン及びインデノ [1,2,3-cd]ピレンに基づいて行われるべきであると結論した。これら8種のPAH(PAH8)が個別又は組みあわせで食品中PAHの発がん性指標として使用できる可能性のあるものである。
合計で33の食品カテゴリーの9714のPAH検査結果を評価した。検体の約30%はSCFの推奨した優先順位の高い15物質全てを測定し、ベンゾ[a]ピレン陰性でも他の遺伝毒性発がん性PAHが検出されているため、個々の化合物をグループに分類して合計し、合計値がより良い指標になるかどうかチェックした。個々のPAHの選択は検出限界(LOD)以上でどれだけ検出されるかによった。
上述の8種のPAH(PAH8)の合計の他にベンゾ[a]ピレンとクリセンとベンズ[a]アントラセンとベンゾ [b]フルオランテンの合計(PAH4)及びベンゾ[a]ピレンとクリセンの合計(PAH2)についても計算した。PAH2とPAH4又はPAH8の相関は0.92、PAH4とPAH8の相関は0.99であった。PAH2陰性の検体のうち26%がPAH15の、18%がPAH8の最低どれか一つがLOD以上であった。個々のPAHやPAHの組み合わせの頻度は2%から9%まで変動した。PAH4陰性の検体のうち14%がPAH15の、6%がPAH8の最低どれか一つがLOD以上であった。個々のPAHやPAHの組み合わせの頻度は1%から6%まで変動した。全体として、PAH2よりPAH4とPAH8のほうが存在の良い指標であると結論した。
次いで食品の異なるカテゴリー毎にPAH2やPAH4やPAH8のデータを用いて暴露量を計算し、腫瘍発生動物の10%増加のベンチマーク用量下方信頼限界(BMDL10)に基づく暴露マージン(MOE)推定を行った。
ヨーロッパにおける食事暴露中央値は、平均的及び高摂取群でベンゾ[a]ピレン単独では235 ng/day (3.9 ng/kg b.w. per day)及び389 ng/day (6.5 ng/kg b.w. per day)、PAH2については641 ng/day (10.7 ng/kg b.w. per day) 及び1077 ng/day (18.0 ng/kg b.w. per day)、PAH4については1168 ng/day(19.5 ng/kg b.w. per day) 及び 2068 ng/day (34.5 ng/kg b.w. per day)、 PAH8については1729 ng/day (28.8 ng/kg b.w. per day)及び3078 ng/day(51.3 ng/kg b.w. per day)であった。食事からの暴露で最も寄与が大きいのは穀物及び穀物製品とシーフード及びシーフード製品であった。
平均的及び高摂取群の食事暴露量に基づきMOEアプローチを採用した。平均的摂取量群についてのMOEはベンゾ[a]ピレンで17,900、 PAH2で15,900 、PAH4で17,500 、PAH8で17,000であった。高摂取群ではベンゾ[a]ピレンで10,800、 PAH2で9,500 、PAH4で9,900 、PAH8で9,600であった。これらのMOE値は平均的な推定暴露量のヒトにとっては健康上の懸念は低いことを示す。このことは全EUでの平均でもあてはまる。しかしながら高摂取群についてはMOEが1万近く又は1万以下であり、この値はEFSAが健康上のリスクの可能性があるとしてリスク管理のための対応が必要であると見なしている値である。ベンゾ[a]ピレンとPAH2やPAH4やPAH8で計算したMOEを比較するとPAH2やPAH4やPAH8はンゾ[a]ピレン単独の代用指標としていずれも有効であることを示す。
CONTAMパネルは食品中のPAHの存在の指標としてはベンゾ[a]ピレンは適切な指標ではないと結論した。CONTAMパネルはPAH4やPAH8が食品中PAHの最も良い指標であると結論した。