食品安全情報blog過去記事

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ビスフェノールAの新しい研究は過去のリスク評価に疑問を呈するものではない

19.09.2008
http://www.bfr.bund.de/cm/216/neue_studien_zu_bisphenol_a_stellen_die_bisherige_risikobewertung_nicht_in_frage.pdf
米国からの2つの新しい研究によりビスフェノールAが再び議論を呼んでいる。
BfRは新しい研究により健康リスク評価の見直しが必要かどうか検討した。その結果どちらの研究もこれまでのBPA評価を変える根拠とはならないと結論した。
2007年にEFSAが設定したTDI 0.05 mg/kg体重以下であれば消費者にとって健康リスクはない。二つの研究はビスフェノールのヒトへの影響についてさらなる研究が必要であることを示した。BfRは新しい研究結果を継続的に評価し続ける。
BPAはプラスチックや合成樹脂製造の際に使用される化合物で多数の消費者製品に含まれる。飲料缶や貯蔵ボックスなどから食品に微量溶出して消費者が摂取する。
BPAの毒性はよく調べられている。急性毒性は低く発がん性はない。ただし女性ホルモンと類似した作用をもつ化合物のグループに属し、内分泌攪乱物質と呼ばれる。しかしながらヒトの身体では活性のない代謝物に速やかに変換されて尿から排出される。ホルモン作用が観察されている齧歯類では代謝が遅くヒトとは違う。
昨年入手できる全ての情報をもとにEFSAがTDIを設定した。0.05 mg/kg体重のBPAを消費者が摂取しても健康リスクとはならない。BfRはEFSAの評価を支持する。消費者のBPA暴露量はTDIよりはるかに低く、FDAなどの他国の機関も現時点での食品からの暴露によるBPAは消費者に健康リスクとはならないとの見解を示している。
JAMA(300 (2008) 1303-1310)とPNAS(105 (2008) 14187-14191)に発表された二つの論文を評価した結果、BfRはこれらの知見はこれまでのリスク評価に疑問を投げかけるものではないと結論した。
Leranthらの研究ではサルの脳に対するBPAの影響をみているが、BPAを放出するミニポンプを皮下に埋めている。従ってBPA代謝されることなく直接脳や内部臓器に到達する。しかし食品中のBPAは腸や肝で速やかに代謝され腎臓経由で排出される。
Lang et al.らの論文では1455人の米国成人の尿中BPA濃度と健康データを比較している。ある時点でのBPAの排出量と糖尿病や心疾患などの慢性疾患が相関するかどうか調べた。この手の研究では著者が指摘しているように相関関係から因果関係は言えない。疾患が発症してからの尿中濃度からは病気の初期や進行過程については何の結論も出せない。これらの研究はビスフェノールAのヒトでの影響についてさらなる研究が必要であることを示すものである。


参考
JAMAの論文
http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20080918#p5
http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20080918#p6
PNASの論文
http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20080910#p6