食品安全情報blog過去記事

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精子の質と農薬についての主張には「注意が必要」

Sperm quality pesticides claim 'should be treated with caution'
Tuesday March 31 2015
http://www.nhs.uk/news/2015/03March/Pages/Pesticides-on-fruit-and-veg-may-damage-sperm-quality.aspx
Daily Telegraphが「野菜や果物の残留農薬が男性の精子数に悪影響を与え、子どもが欲しいならオーガニックにすべき」と報道した。残留農薬の多い野菜や果物を多く食べる男性の精子数が49%、正常な形態の精子が32%、最も食べる量の少ない男性より少ないことを研究が発見した。精子は時々形が異常になり運動したり受精したりするのが難しくなる。
この研究の結果には注意が必要である。研究者らは個人の食事の残留農薬を調べたわけではない。また男性の食べているものがオーガニックかどうかもわからない(Telegraphが見逃している欠点)。従って男性の食事からの農薬暴露量は間違って分類されている可能性がある。この研究の男性は全て不妊治療クリニックに通っている人で、一般人にはあてはまらないかもしれない。
この研究を根拠に野菜や果物を食べないようにしようと考えるべきではない。野菜や果物を食べないことは精子の質に悪影響があるだろう。男性の精子の数や質には喫煙や飲酒、運動、体重など多くの要因が影響する。食事中の農薬が影響するかどうかはさらなる研究が必要な別の要因である。

関連

  • 「野菜や果物の隠された危険」

Senseaboutscience
"The hidden perils from fruit and veg"
31 March 2015
http://www.senseaboutscience.org/resources.php/179/quotthe-hidden-perils-from-fruit-and-vegquot
Daily Telegraph (印刷版), Sun (印刷版) および Guardian が3月31日に野菜や果物の農薬と精子の数の少なさを結びつけた研究を報道した。その研究はHuman Reproductionに発表された。Daily Telegraphの記事では「科学者は農薬が精子数に悪影響を与える可能性を警告し男性は子どもが欲しかったらオーガニックにすべきと示唆した」と書いている。実際にはこの研究では食べた食品の農薬を測定していない。
Sheffield大学男性病学Allan Pacey教授
この研究には欠点や限界があるので解釈には注意が必要である。著者への批判ではない。この種の研究は困難で、著者自身が実際の食品の残留農薬を調べていないと断っている。観察研究であるため、男性の食事の他の要因やライフスタイルなどの影響である可能性を否定できない。

  • 野菜や果物、農薬、精子の質を調べた研究への専門家の反応

SMC UK
expert reaction to study investigating fruit and vegetables, pesticides and semen quality
March 31, 2015
http://www.sciencemediacentre.org/expert-reaction-to-study-investigating-fruit-and-vegetables-pesticides-and-semen-quality/
Queen’s University Belfast 生殖医学Sheena Lewis教授
これは興味深い研究だが結果は文脈を考慮しなければならない。比較的少数の155人の男性の研究で、全員が不妊治療中であり一般人より影響が出やすいかもしれない。最も農薬が多い集団の精子数と形態は、最も農薬が少ない群より低いとはいえWHOの推奨範囲内の標準である。著者の結論は正しく、さらなる研究が必要で1日5単位の野菜や果物を食べることをやめるべきではない。
Birmingham女子生殖センターJackson Kirkman-Brown博士
この論文は食事が男性の生殖や精子の質に影響するという根拠が蓄積しつつあることを強調する。データからは精子のパラメーターに影響したのが野菜の種類なのか残留農薬なのかは評価できない。農薬を測定したわけではなく患者の中にはオーガニックを食べている人もいるだろう。従ってこの論文は不必要な心配を誘発している可能性がある。
精子の質を最適化したいと思う男性は、さらなるデータがでるまで、健康的でバランスの取れた食生活をすべきである。
Sheffield大学男性病学Allan Pacey教授
(略Senseaboutscienceでも紹介しているので)