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CFS(食物安全センター)の基準値(アクションレベル)を超える、上海ガニのダイオキシンとダイオキシン様PCBs(ポリ塩化ビフェニル)について-よくある質問-

2016年11月11日更新
1.ダイオキシンダイオキシン様PCBs(DL-PCBs)とは何か。
ダイオキシンはポリ塩素化芳香族化合物の一種である。環境中至る所にあり、自然発生のもの(例:噴火、森林火災)、燃焼副産物によるもの(例:廃棄物焼却)、および、産業プロセス上発生するもの(例:化学品、製紙用パルプの塩素漂白、溶錬)がある。一方、PCBsは電子絶縁体もしくは絶縁液体及び特殊な油圧油のような様々な工業用途のために過去に製造されたものである。
2.ダイオキシンやDL-PCBsの主要源はなにか
ダイオキシンやDL-PCBsは環境において、脂溶性であり、難分解性である。それゆえ、それらは脂肪組織に蓄積しやすく、食物連鎖に従い、ほかの生物からヒトへ次第に蓄積する。
それぞれのダイオキシンやDL-PCBsはそれぞれ毒性の程度が違う。特定されたすべての種類の関連化合物の中で、最も毒性の強いものは、2,3,7,8-テトラクロロジベンゾパラジオキシン(TCDD)である。
PCBsの生産や使用は、1970年代から多くの国々で禁止されてきた。しかし、PCBsは不適切な廃棄物燃焼処理や適切に維持管理されていないPCBsを含む廃棄物処理場から、いまだに環境に放出されることがある。一度、環境に放出されると、PCBsは土壌や水圏底質を汚染し、食物連鎖を通してPCBsの生物蓄積や生物濃縮につながる。
ダイオキシンとDL-PCBsは肉、鶏肉、またはシーフードの脂肪組織に濃縮され、より寿命の長い動物は、その脂肪組織にダイオキシンやDL-PCBsの蓄積の可能性はより高いかもしれない。肉や乳製品、卵や魚のような動物由来の食物は、ダイオキシンやDL-PCBsの濃度がより高い傾向がある。
海外で発生したダイオキシン関連の食物危機のいくつかは、かなり大きな世間の注目や懸念を引き起こした。香港では、食物のダイオキシンの状況は、食物環境衛生署によって厳密に監視されている。
3.ヒトは何からダイオキシンやDL-PCBsに暴露するのか?
ヒトがダイオキシンやDL-PCBsに暴露する原因は、食物摂取、飲料水、大気の吸引、皮膚接触がある。食事による摂取は、圧倒的に最も重要な暴露である。肉、鶏肉、シーフード、牛乳、および卵のような高脂肪食物、食品はダイオキシンやDL-PCBsの食事における摂取の主な原因である。
水産動物において、脂肪量の多い体の部分は、よりダイオキシンやDL-PCBsの量も多い。例えば、魚のレバーやカニの褐色の肉(カニの生殖腺、肝臓、消化腺を含む)はダイオキシンやDL-PCBsを多く含むことが分かっている。
4.ダイオキシンやDL-PCBsの健康への影響は何か
予期せず、ダイオキシンやDL-PCBsに大量に暴露すると(例:職業環境または業務災害)
塩素座瘡、発疹、皮膚変色、多毛を引き起こすだろう。国際がん研究機関(IARC)はダイオキシンとDL-PCBsをヒト発がん性物質に分類している。ダイオキシンやDL-PCBsへの長期間暴露は、免疫系、生殖系、内分泌系、および、発達神経系の機能障害に関連する。ヒトの糖尿病、甲状腺機能異常、心疾患との関連の研究も報告されている。
5.食品中ダイオキシンやDL-PCBsの毒性レベルはどのように決められるのか
それぞれ異なったダイオキシンとDL-PCBsはそれぞれ違った毒性を示す。ダイオキシンとDL-PCBsの濃度は、毒性等量(TEQ)として示され、それぞれの化学物質の毒性の強さを総計し算出される。TEQはその化学物質に相当する毒性等価係数に各同族体の化学物質の量を乗じて算出される。
6.食品安全センターは香港市民のダイオキシンやDL-PCBsに対する食事暴露をどう評価するか?
2011年12月、食品安全センターは食品中ダイオキシンやDL-PCBsを研究した第一回香港トータルダイエットスタディのもと、第一回目の報告書を発表した。ダイオキシンやダDL-PCBsの食事暴露量は平均で21.92 pg TEQ/kg bw/month、高暴露群で59.65 pg TEQ/kg bw/month 、PTMI(暫定耐容月間摂取量)(例 70 pg TEQ/kg bw/month)とそれぞれ比較して低い。それゆえ、一般の人々はダイオキシンやDL-PCBsによる健康への悪影響はありそうにない。
7.ダイオキシンやDL-PCBsは環境や食物連鎖の至る所にあり、どの程度のレベルが十分でないといえるのか。基準レベルとは何か。
香港では、食物中ダイオキシンやDL-PCBsの状況は食品環境衛生署によって、厳密に監視されている。国際的慣行や地域の食習慣(例:カニの可食部に褐色肉、白色肉を含む)を考慮し、食品安全センターは上海蟹の可食部についてはダイオキシンについては3.5 pg/g wet weight、ダイオキシンとDL-PCBsの総量については6.5 pg/g wet weightのアクションレベルを設定した。
※蟹の褐色肉とは、生殖腺、肝臓、消化腺を含み、白色肉とは蟹の手足などの付属器官の筋肉部を含む。
各々の食品で、ダイオキシンやDL-PCBsのアクションレベルを超えたからと言ってただちに健康上のリスクとなるわけではないということに注意。
8.海外の食品におけるダイオキシンやDL-PCBsの基準は?
現在、コーデクッス委員会は食品におけるダイオキシンやDL-PCBsに対する上限を設けていない。
中国本土においては、ダイオキシンやDL-PCBsの国の基準やアクションレベルを設けていない。
欧州委員会は魚の筋肉部や魚介類(蟹を含む)において、ダイオキシン量を3.5 pg/g wet weight、ダイオキシンとDL-PCBsの総量を6.5 pg/g wet weightと上限を設定した。蟹の場合、これらの基準は手足などの付属器官の筋肉部だけに適用される。
台湾では、魚やそのほかの水産動物、その製品に同様に、ダイオキシン量を3.5 pg/g wet weight、ダイオキシンとDL-PCBsの総量を6.5 pg/g wet weightと上限を設定している。蟹の場合、最大基準レベルはすべての可食部に適用している。(カニの卵や肝膵臓のような内臓を含む)
9.なぜはダイオキシンやDL-PCBsの食事暴露に関連ある健康リスクとして“長期暴露”を評価するのか
一般に一部の食品はダイオキシンやDL-PCBsを含むが、その濃度では、急性影響は引き起こされないそうにない。しかしながら、ダイオキシンダイオキシン様PCBsは脂溶性で、難分解性であり、脂肪組織に蓄積する傾向にある。それらは長期的にヒトの健康に有害影響を引き起こすかもしれない。汚染物質に対して、健康ベースの指針値(例:耐容月間摂取量)を設定する場合、FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)は、これらの汚染物質の長期的摂取に関する実験データを踏まえる。
10.もし、食品中のダイオキシンやDL-PCBsがアクションレベルをこえても、即座に健康被害を示さない場合、懸念される食品のリスクはどのように評価されるのか
長期的な健康影響に関しては、FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)は、
ダイオキシンダイオキシン様PCBsに対して、月に70 pg WHO-TEQ/ kg bwという、暫定耐容月間摂取量(PTMI)を定めている。PTMIは毒性物質の摂取量であり、体重あたりで示される量だが、個人が生涯かけて毎月摂取し続けても健康上影響ないと推定される量である。PTMIは、体内における毒性物質の蓄積を踏まえ、生涯にわたる暴露量を重視するものである。PTMIを上回る時折の短期間の暴露は、長期間では平均摂取量を超過しないという条件で、健康に影響しないだろう。
しかし、もし、ダイオキシンやDL-PCBsの食事暴露が長期間健康についての指針値を超えるのであれば、汚染物質に関連した健康へのリスクは排除できないだろう。
11.上海ガニの検体にダイオキシンやDL-PCBsが見つかったことに関して、食品安全センターは懸念ある上海ガニを食べるリスクをどのように評価するのか。
輸入時に採取された2検体の上海ガニダイオキシンとDL-PCBsは11.7および 40.3 pg/g TEQ、検出された。
ダイオキシンとDL-PCBsの濃度が高い検体についてのリスク評価は、通常の消費において、消費者が直ちに健康被害や急性中毒を引き起こしそうにない、というものである。
慢性毒性に関しては、FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)は暫定耐容月間摂取量(PTMI)を70 pg/kg of body weight (bw) / month TEQと設定している。
バックグラウンド暴露量を考慮に入れると、ダイオキシンやDL-PCBsが40.3 pg/g TEQという検体のリスク評価は、体重60kgの平均的消費者が一年の蟹のシーズンに14杯(一杯約150g)食べてもPTMIの値には至らない。高摂取消費者の場合、月に3杯食べれば、食事暴露量はPTMIを超えるだろう。
注意すべきことは、一時的なPTMI超過は、平均的な摂取が健康ベースの指針値を継続して超えていない、という条件の下で、健康への影響はないだろうということである。また、食品検体中のダイオキシンやDL-PCBsの基準を超えただけでは、急性の健康リスクを意味しない、ということである。
12.ダイオキシンやDL-PCBsの食事暴露はどうすれば減らせるか。
ヒトの暴露の予防や低減は発生源対策によって行われなければならない。ダイオキシンやDL-PCBs放出やそれに伴う食品汚染の削減における国際的な取り組みは市民のダイオキシンダイオキシン様PCBsの食事暴露に不可欠である。
市民に呼び掛けていることは、肉の脂肪を落とすこと、低脂肪の乳製品を摂取するということである。 また、少数食品からのダイオキシンやDL-PCBsの過度な暴露を避けるため、様々な種類の果物や野菜を含んだ、バランスのとれた多様な食生活を薦めている。魚は多くの不可欠な栄養素、例えば、オメガ3脂肪酸や高品質のたんぱく質を含んでいるため、様々な種類の魚の適度な消費は推奨されている。
発育中の胎児はダイオキシン暴露にもっとも影響を受けやすい。器官の発達が著しい新生児もまたある種の影響をうけやすいかもしれない。妊娠中の女性や授乳中の母親は胎内の胎児や授乳中の乳児に汚染物質を与えている可能性がある。世界保健機関によると、上記に述べた体内負荷量を減らす長期的な戦略は、のちに発達中の胎児や授乳中の乳児の暴露を減らすことになる少女や若い女性にとって最も重要であろう。妊娠女性、授乳中の母親および子供は特に食事助言に注意を払わなければならない。