食品安全情報blog過去記事

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鶏肉および豚肉に存在する細菌における抗菌剤耐性の調査結果公表

Publication of survey of antimicrobial resistance in bacteria in chicken and pork
5 September 2018
https://www.food.gov.uk/news-alerts/news/publication-of-survey-of-antimicrobial-resistance-in-bacteria-in-chicken-and-pork
本日FSAは、英国内の店頭で販売されている生鮮豚挽き肉および生鮮ないしは冷凍鶏肉に存在する細菌における抗菌剤耐性(AMR)の獲得状況を調べた結果を公表した*。
これらの知見は、英国で小売されている食肉で検出される細菌におけるAMR出現率の水準やAMRの種類を把握するのに役立つ。
この調査は、食品の微生物学的安全性に関する諮問委員会(ACMSF)が設立した作業部会によって公的な報告が行われて以来続けられている。ACMSFは、FSAに対し、調査における疑問点に関してやフードチェーンにおけるAMRへの取り組みの可能性に関して助言を行っている。
人々がこれらの食品から抗菌剤耐性感染症を罹患するリスクは、鶏肉や豚肉が肉汁が透明になるまで完全に調理されている場合、非常に低い。このようにすると、抗菌剤耐性の細菌を含む食中毒を起こす可能性のある細菌は死滅する。

  • 英国の小売店で採取した鶏肉および豚肉試料から分離された細菌における抗菌剤耐性の調査研究

Surveillance Study of Antimicrobial Resistance in Bacteria Isolated from Chicken and Pork Sampled on Retail Sale in the United Kingdom
5 September 2018
https://www.food.gov.uk/sites/default/files/media/document/amrinchickenandporkfinrepjuly18_fs101196.pdf
英国のフードチェーンにおける抗菌剤耐性(AMR)の体系的なレビュー(2016)の結果、英国で製造される食品におけるAMR汚染実態のデータが不足していると結論付けられた。これを受けて、短期(2017年9月および10月の2ヵ月間)の横断的な調査が、英国で小売されている生鮮/冷凍鶏肉および生鮮豚挽き肉について実施された。
イングランドウェールズスコットランドおよび北アイルランドの小売店から、生鶏肉339検体、生豚挽き肉342検体が集められた(国内産および輸入品を含む)。検出対象は、大腸菌(基質拡張型β-ラクタマーゼ産生大腸菌を含む)、クレブシエラ属菌、さらに鶏肉ではカンピロバクター属菌、豚肉ではサルモネラ属菌であった。検出菌を分離し、カンピロバクター属菌を除き基本的に1つの分離株を選び、一連の抗菌剤について最小発育阻止濃度(MIC)を求めた。
豚挽き肉におけるサルモネラ属菌の検出率は1.5%(5/342件)であった。そのうちの4件はネズミチフス菌(Salmonella Typhimurium)であったが、これらは全てアンピシリンおよびテトラサイクリンに耐性で、スルファメトキサゾールへの感受性も減少していた。残り1件はSalmonella Derbyで、スルファメトキサゾールを除くすべての抗菌剤に感受性であった。どのサルモネラ属菌も、基質拡張型β-ラクタマーゼやAmpC型β-ラクタマーゼを産生する形質(ESBLおよびAmpC)は持っていなかった。
鶏肉におけるカンピロバクター属菌の検出率は25%(85/339件)であった。冷凍はカンピロバクター属菌の菌数に大きく影響することが知られており、この試験では冷凍鶏肉検体の全85件の内、34検体ではカンピロバクター属菌は検出されなかった。陽性だった79検体からCampylobacter jejuniを157株、Campylobacter coliを45株分離して試験した。残りの陽性6検体は試験中生育が認められなかった。C. coliのシプロフロキサシン耐性率は46.7%(21/45株)、エリスロマイシン耐性率は6.7%(3/45株)、テトラサイクリン耐性率は60%(27/45株)であった。C. jejuniのシプロフロキサシン耐性率は38.9%(61/157株)、エリスロマイシン耐性率は7.6%(12/157株)、テトラサイクリン耐性率は61.8%(97/157株)であった。全ての分離株がゲンタマイシンに感受性であったが、C. coliの1株はストレプトマイシンに耐性であった。多剤耐性率はC. coliで8.9%(4/45株)、C. jejuniで0.6%(1/157株)であった。C. jejuniが検出された66検体のうち、シプロフロキサシン耐性C. jejuni株が検出されたのは25検体(38%)、エリスロマイシン耐性株が検出されたのは6検体(9%)、テトラサイクリン耐性株が検出されたのは39検体(59%)であった。C. coliが検出された21検体のうち、シプロフロキサシン耐性C. coli株が検出されたのは8検体(38%)、エリスロマイシン耐性株が検出されたのは3検体(14%)、テトラサイクリン耐性株が検出されたのは11検体(52%)であった。
大腸菌の検出頻度は、鶏肉試料(165/339件; 49%)の方が豚挽き肉試料(35/342件; 10%)よりも高かった。シプロフロキサシン耐性率は鶏肉由来分離株で26%(34/131株)であったのに対し、豚肉由来分離株では13%(12/94株)であった。ナリジクス酸耐性率は鶏肉由来株で25%(33/131株)であったのに対し、豚肉由来株では3%(3/94株)であった。またゲンタマイシン耐性率は鶏肉由来株で7%(9/131株)であったのに対し、豚肉由来株では0%(0/94株)であった。一方、クロラムフェニコール耐性率は、鶏肉由来株で37%(48/131株)であったのに対し、豚肉由来株では72%(68/94株)であった。またテトラサイクリン耐性率は、鶏肉由来株で7%(9/131株)であったのに対し、豚肉由来株では23%(22/94株)であった。ESBL陽性(AmpCは陰性)大腸菌は、全検体のうち6.5%(44/681件)で検出され、豚肉では4.7%(16/342件)、鶏肉では8.3%(28/339件)であった。AmpCだけが陽性の大腸菌は、鶏肉で11.5%(33/339件)検出されたが、豚肉試料からは検出されなかった。ESBLとAmpCの両方が陽性の大腸菌は、鶏肉においてのみ検出された(1.8%; 6/339件)。AmpCの陽性・陰性にかかわらずESBLが陽性であった検体の出現率には、鶏肉(10%; 34/339件)と豚肉(4.7%; 16/342件)とで統計学的に有意差が認められた。ESBL産生大腸菌が陽性の鶏肉検体の割合は、英国での最近の他の調査と比べ、低下している(2013/2014年では65.4%、2016年では29.7%、今回10%)。
腸球菌の検出率は、鶏肉試料(53%; 180/339件)の方で豚挽き肉試料(30%; 103/342)よりも高値であった。それらの試料から298株を分離して抗菌剤耐性を調べたところ、耐性保持率は低く、3株(1%)のみがバンコマイシン耐性で、1株(0.3%)のみがテイコプラニン耐性であった。
大腸菌や腸球菌の場合とは対照的に、クレブシエラ属菌の検出率は豚挽き肉の方が高かった(鶏肉で6.5%; 22/339件であったのに対し37%; 127/342件)。クレブシエラ属菌は85株を分離し、抗菌剤耐性を調べたが、アンピシリン(もともとクレブシエラ属菌は耐性)を除く、試験したすべての抗菌剤で、大腸菌よりも耐性出現率は低かった。
この調査は、英国で小売されている鶏肉や豚挽き肉で検出される細菌におけるAMR出現率の水準やAMRの種類に関する情報を与える。FSAはこの情報を用いて、これらの食品中のAMR低減の進捗状況を監視し、英国のAMR戦略の状況を伝えることができる。この調査で得られたデータは、国内で年度を追って比較するための基本データセットとなり、また他の国のデータとの比較にも用いられる。また、将来行われるかもしれない介入の影響を監視する際にも、このデータが基準・指標となる。
抗菌剤耐性は、検討を行った全ての菌種である程度認められた。医療上最も重要な抗菌剤への耐性は、豚肉よりも鶏肉でより高率に検出された。しかし、これらの食品からAMRのある細菌に感染するリスクは、食品が衛生的に調理され取り扱われている限り、非常に低い。試料採取計画が市場での販売実態に合わせたものとされたため、英国以外の国で生産された肉の試料数が少なく、英国産肉と非英国産肉との間の相違を統計学的に分析することはできない。これは、今後の調査では考えるべき点かも知れない。